品質表示から漆器を分析する Vol.165~168

「表面塗装の種類」

お客様が漆器を購入されると、商品の素材や産地、問い合せ先を示す「品質表示」がラベルやしおりの形で商品に添えられています。これは家庭用品品質表示法により漆器メーカーに義務付けられているもので、実際の重さや感触、風合いとあわせて「品質表示」をチェックすることである程度の素材が判別でき、使用方法などの目安にすることができます。
「表面塗装の種類」の欄には、「漆(うるし)塗装」「ウレタン塗装」「カシュー塗装」といった内容が表示されています。それぞれ「最終仕上げの塗装」として漆やウレタン(合成塗料)、カシュー(カシューナッツの実を原料とした塗料)で塗っていることを示しています。たとえば、お客様の品質表示に「漆塗装」と表示されていれば、紫外線や熱による変色にご注意いただくなど、ご使用いただく際の参考にしていただくことができます。
ちなみに「品質表示」には、すべての工程や素材の詳細までは記載されていません。「漆塗装」と一口にいっても様々な「漆」の品質がありますし、仕上げ塗りの前の下地部分には漆以外の素材を使った塗装を行う場合もあります。同じメーカーのなかでも商品によって工程や素材が細かく異なるため品質表示にすべてを記載することが難しく、正確なところは購入されたお店や生産したメーカー等に確認するのが確実といえます。
20090123

「素地の種類」

品質表示ラベルにある「素地の種類」の欄には「天然木」、「木粉入りフェノール樹脂」、 「ABS樹脂」など塗り物のベースとなる部分の材質が表示されています。
「天然木」と書かれたものは、字のとおり「天然の木」を加工してつくられたものです。 同じ天然木でも「天然木(中質繊維板)」とかかれたものは、天然の木材チップを細かく裁断して 接着剤で成型してつくった板です。木と同様、加工がしやすく漆との相性がよいほか、 木特有の反りが発生しにくく安価であるなどのメリットがある反面、重くて水や湿気にあまり強くないのが特徴です。 英語の略称でMDF(medium density fiberboard)と呼ばれ、産地ではボードと略して読んだりします。
「木粉入り○○樹脂」という表示は、合成樹脂に木の粉を混ぜて固めた成型品です。 同じ意味で「天然木加工品」と表示しているメーカーもありますが、 天然木そのものを加工したものではないので注意が必要です。 同じく「木乾(もっかん)」と呼ぶことがあります。木粉の量について「60%」「48%」など 具体的に表示することもあり、メーカーの立場では木粉の量が多いほうが天然漆との相性がよいとしています。
「○○樹脂」というのは、100%合成樹脂ということで「メラミン」「フェノール」「ABS」などの プラスチックの一種です。塗装は合成塗料との相性がよく、価格的にも比較的安価な製品が多いのが特徴です。
20090130

「登録番号」

漆器製品の品質表示ラベルを見ると、「登録番号」および各産地の漆器組合名が明記されている場合があります。漆器業界は家族経営など小さな企業が多く、特に一昔前まではエンドユーザーと直接接点をもつことが少なかったため、産地ごとに組織されている漆器組合がエンドユーザーであるお客様の問い合わせ窓口になっているものです。
「登録番号」の記号の意味ですが、当社の場合は「SK-HI-0010」と表示されていて、SKは漆器、HIは福井、0010は当社の組合登録番号になります。各漆器組合に登録番号を確認すれば製造者がわかるので、修理のご相談時などに便利です。特にお客様がギフトなどで入手され、製造者や販売者が不明の漆器については「品質表示ラベル」によって製造された産地やメーカーを知ることができるので、事前にラベルの内容を確認したり、残しておくことをおすすめしております。
最近はインターネットの普及により、漆器業界でもメールやホームページ、ネット通販を活用して自社名で直接エンドユーザーのお客様とやりとりをさせていただくケースが多くなりました。直接お問い合わせをお受けする体制が整っている企業では、品質表示ラベルに自社名を掲載して発行しているケースも増えているようです。
20090206

「漆に関する新基準」

漆器の品質表示基準を示している「日本漆器協同組合連合会(日漆連)」より、 このほど「塗装の種類」おける「漆」表示について新たな基準が各産地に示達されました。
一般的に漆といえば「100%天然漆」をイメージしますが、近年、漆に合成樹脂塗料を混入した塗料が開発され、 メーカーとしては完成までのスピードアップやコストダウン、また様々な素材への対応が可能になりました。 一方で「100%天然漆」を使用して湿度や気温に注意を払いながら職人が 木製素地から何度も漆を塗り重ねていく伝統的な漆器製法による漆器との違いがあいまいになっているという状況が発生しています。 今回、日漆連から新たな基準が示されたのは、漆器をお使いいただくお客様にも漆の種類を判別しやすくすることが一つの理由と考えられます。
具体的な変更点としては、漆に合成樹脂塗料を混入したものは「漆塗装」とは表示せず、 「漆と(合成樹脂塗料名)の混合塗装」と表示します。 漆の比率が50%未満と少ない場合は「(合成樹脂塗料名)と漆の混合塗装」と表記が前後入れ替わります。 なお漆が50%以上の場合は漆の比率についても付記する必要があります。
多様化するお客様ニーズのなかで、私ども産地の漆器メーカーとして「漆塗装」と「漆と合成樹脂塗装の混合塗装」を使い分けて ご提案することは時代の流れと受け止めています。これからも表示基準の遵守を徹底し、お客様に正しい情報を伝えていきたいと考えています。
(山本泰三)
20090213