合成塗料による漆器の生かし方 Vol.277~280

「ナチュラルな塗装」

天然漆を使わず黒色や朱色の合成塗料が塗られた”漆風”のお椀や重箱などは、広い意味での「漆器」として市場にならんでいます。 合成塗料による漆器に対しては昔から作り手の中でも様々な考え方があり、「価格を抑えて購買層が広がった」、「業務用などとしても提案しやすくなった」 という前むきなものから「天然素材に携わる職人の仕事を減らした」「消費者を混乱させ、わかりづらい漆器のイメージを作った」、 「売り上げ主義だ」と批判的なものもあるようです (合成塗料については第141~144回ご参照)。 私の考えとしては昔からの作り手の頑固なこだわり (本物だ、偽物だなど)を主張することも大切なことですが、多様化するお客様ニーズや変化するライフスタイルの中で積極的に漆器を選んでいただくためには、 (あくまで漆器づくりの軸がぶれない範囲で)作り手が様々な素材を受け入れてそのメリットを十分に引き出して今の時代にあった新製品開発をすることが 「これまでの漆器を将来に生かす」ポイントだと思っています。今回はそういう観点から「合成塗料を積極的に使用して、 今のお客様に前向きに受け入れられている製品」をいくつかご紹介していきたいと思います。
その一つは、お椀などの形に加工した木肌の上からクリア(透明)な合成塗料を施した製品です。 木肌のナチュラル感を残しつつ、合成塗料を施すことで水のしみ込みや汚れに対する耐性を高めます。 前回ご紹介した茶褐色の天然拭き漆仕上げ(257~260回273~276回ご参照)による木製スプーンも木目を生かす技法ですが、完全な透明色の合成塗料の場合は見た目に一層ナチュラルな感じを演出します。塗装は合成的なものですが、木地は天然、加工方法も伝統的な漆器づくりの技法をそのまま生かしているため、お客様に対しては「自然な感じ」という印象を強く与えます。こうした塗装は家具や建具、雑貨関連の業界では一般的に取り組まれてきましたが、「漆」「色」にこだわってきた漆器業界では近年までそれほど積極的な取り組みではありませんでした。「エコ」「自然派」などをキーワードとしたナチュラルな感じの製品が売れている昨今、漆器業界としてもクリアな合成塗装を施した木製商品は、漆器を今のライフスタイルに生かす流れのひとつとして注目しています。
20110318

「漆塗り装飾品へのクリア塗装」

当社では、本漆を施した指輪やネックレスなど身に付ける装飾品(ジュエリー、アクセサリー)についてお客様のご要望に応じて漆塗りの上から合成塗料によるクリア(透明)塗装を施す場合があります。また、「クリアコーティング加工」という説明付きで漆の上からの合成塗装を標準仕様としている指輪シリーズもあります。これは、装飾品がお椀やお重箱などの一般的な漆器製品に比べて小さいながらハードに使われることが多く、漆塗装面への直接の傷を防止する効果があるほか、人肌に直接触れながら継続的に使い続けるアイテムとして万一の漆カブレ防止にもなるため「より安心感をもってお使いいただける」ことが背景にあります。本漆を扱う作り手の立場としては「せっかく塗った本漆がもったいないのでは」という意見もありますが、漆本来の輝きや美しさを大切に保護しながら安心して使えることで漆塗りの装飾品を幅広い層のお客様に楽しんでいただくための「ぜいたくな塗装」、「漆を生かす塗装」ととらえることもできると思います。
現在当社では、装飾品以外のお椀や重箱など通常製品において本漆の上から合成塗装を施したものはありませんが、これからのライフスタイルの中で伝統的な漆塗り製品を生かしていくために、合成塗装と漆塗りそれぞれのメリットを融合させた製品づくりに関しても幅広く研究してゆきたいと考えています。
20110325

「金箔製品のコーティング」

昔から漆は「金箔」を貼り付ける際の接着材として使用されてきました (第138回参照)。 さらに貼り付けた金箔の表層に対しても半透明の生漆を薄く擦りこんで、外部との接触による擦り傷やはがれ等を防ぎました。顔料が入っていない漆の色は完全な透明ではなく薄茶色をしているため、金箔の上に厚く塗りすぎてしまうとせっかくの金色の輝きが黒ずんでしまい、逆に薄く漆を擦りこむほどコーティング材としての強度が弱くなるという課題がありました。
そこで、一定の強度を維持しつつ金箔の美しい輝きがそのまま表に見えるように金箔の上からクリア(透明)の合成塗料をコーティング材として施す手法が使われるようになりました。これまではお飾り物やお仏壇関係などに用途が限られていた金箔製品ですが、クリアの合成塗料の登場によって強度が飛躍的に高まり、日常使いの漆器などへも積極的にとりいれられるようになりました。 金箔を施した漆器製品は「外国人の方がすぐにJAPANをイメージしやすく、 高級感が伝わりやすい」として、海外へのお土産用などに大変ご好評をいただいています。
20110401

「合成塗料に対する異なるイメージ」

黒や朱色の合成塗料を施した漆器製品を売り場で手にしたお客様に対して、使っている塗料が本漆ではなく合成塗料であるというご説明をすると、そのことを知らなかったお客様から購入キャンセルとなることがあります。特に本物志向のお客様からみると本漆と同じ色の黒や朱色の合成塗料を施した漆器製品に対して「ニセモノ」という印象をもたれてしまうのが理由です。一方で、前回までにご紹介した「クリア塗料(透明)」や「ホワイト塗料」を施した器の場合、(同じ合成塗料の部類でも)本物志向のお客様も含めて前向きに受け入れていただけることが多いと感じています。
このことを私なりに分析すると、クリア塗装については昔から木目調の家具や建材などに頻繁に使われていることもあって、「ナチュラルな(自然な)」塗料として受け入れられているからではないかと思います。またホワイト塗装(特にアイボリーに近い暖かみのある白色の塗装)については、磁器製品に多い色合いで普段から見慣れていて飽きがこないこと、誰がみても清潔感があり好まれる色であることが理由だと思います。純白に近い白は本漆では表現できない色合いであることから、漆器の「ニセモノ」としてではなく「ベツモノ」になるということかもしれません。
お椀や重箱、折敷にホワイト塗装をほどこした当社の「ホワイトシリーズ」はモダンな漆器という印象から、漆器を使わなくなった若い女性を中心に人気が高く、「気軽に使える」「リーズナブル」「磁器より軽くて、割れない」と前向きにご購入いただいています。ライフスタイルの変化により漆器離れがすすむ昨今、当社では幅広い層の方に漆器について知っていただくエントリー商品として「ホワイトシリーズ」等を積極的にPRするとともに、これからの時代に「漆器を生かす」という観点で合成塗料を使った製品開発にも前向きに取り組んでいきたいと考えています。
(山本泰三)
20110408