素地つくり Vol.45~48

「前切」

こんにちは、千次です。10月に入りました。先日、漆器の素地となる木材(木地といいます)を調達してきました。新鮮な木地は手触りがとても心地よく、これから漆を施していき、何年も、何十年も使っていただくことになるのか・・と思いを馳せております。
今回は、漆器の素地の中でも轆轤(ろくろ)を使用して円形に内側、外側を削って作る「挽物(ひきもの)」ができるまでの工程をご紹介していきたいと思います。
挽物の工程には、最初の段階で「縦木取り」と「横木取り」があります。「縦木取り」とは立っている木を横に切って、薄い切り株状のものを造ります。その断面に器の口径を書いておおよその形に切ります。利点は歪みが少ない点です。欠点は木の芯を省くので大きいものが出来ない点やロスが多くなるために価格が高くなる点です。
「横木取り」は木を横にしてスライスして板の形に切取ります。さらに、その板に器の形を書いて切ります。利点は大きいものでも作ることができ、ロスが少ない点です。
061006
欠点は歪みが出やすいために薄くて高さのあるものは難しい点です。商品によってそれぞれの利点を活かし使い分けています。「縦木取り」は汁椀や吸物椀など、「横木取り」は茶托やお皿、盛器などというように。
こうしておおよその器の形にカットされて、轆轤で挽く前の段階を「前切(まえぎり)」といいます。(写真ご参照)
さて、今回、お椀の形にカットした前切は1つ分の重量が850gありました。木地が十分に乾燥していないこともあり、かなり重いものです。木地が商品として仕上がるまでに重量がどう変化していくのか、次回以降も工程とともにお伝えしていきます。

「荒挽」

秋になり福井では街路樹の花見月が緑と古代朱色を見事に帯び、銀杏並木の金色が夕日に映えております。余談ですが銀杏の木は木目が少なく丈夫で重量も重いと感じるほどではないので「まな板」に最適です。一度、お試し下さい。 今回は、「前切」をしたあとの工程となる「荒挽(あらびき)」についてご紹介します。「前切」された木材を、生木のうちに轆轤(ろくろ)を使って、仕上がり寸法より10~20ミリほど厚めに削ることを「荒挽」といいます。荒挽のあとは数ヶ月寝かし、その後、木の含水率を7~8パーセントまで乾燥させます。かつては乾燥に先立って煮沸したり、燻煙を利用して乾燥させたりしていました。現在は温風乾燥機や除湿乾燥機を使用し2~3週間かけて人工乾燥をしています。人工乾燥の後は天然乾燥(空気中の水分と均質の含水率になるまで外気にさらしてもどしをかけること)をします。

061013
現在は温風乾燥機や除湿乾燥機を使用し2~3週間かけて人工乾燥をしています。人工乾燥の後は天然乾燥(空気中の水分と均質の含水率になるまで外気にさらしてもどしをかけること)をします。
さて、前回紹介した「前切」の時に850gだったお椀の重量はどこまで変化したのでしょうか?内側と外側が削られ、乾燥が施されて、「荒挽」の状態となったお椀は440gになっていました。「前切」から「荒挽」後の乾燥の工程で、約半分の重量になったことになります。

「仕上げ挽き」

日本の秋、行楽の季節ですね。食べ物もたまには外で頂くとさらに美味しく感じ、幸せな気分になりますね。 当社社長の奥さんはときどき自然の素材を上手に使って美味しい料理を作り、それを社員に振舞ってくれます。先週は「栗ご飯」でした。 もち米と新米をブレンドした中に生栗を入れ、塩で味付けしておにぎりにしていただきました。五臓六腑に染み渡る一品でした。
さて、今回は「仕上げ挽き」の紹介をしたいと思います。「荒挽」をした後に乾燥させ、「中荒挽き」で器の形状を修正し、再び乾燥させます 。

061020
その後、最終的な器の形にする「仕上げ挽き」の工程になります。「挽物」の仕事は、削るだけの作業といっても削りすぎて形が違うものになると商品として使えなくなるので大変難しく、失敗は許されません。製図にしたがって板や厚紙で側面図の型を作りそれに合わせながら1個1個轆轤(ろくろ)にかけて挽いていきます。動きに無駄がなく何個も何個も形や大きさ、厚さが同じものを作りあげる職人の手仕事は、大変美しく、見ているだけで感動します。 「仕上げ挽き」し、木地として完成したお椀の重量を測ってみました。なんと木地は100gになっていました。前々回紹介した「荒挽」の工程から8分の1の重量になったことになります。

「白木地」

福井の河和田は山に囲まれており、秋の朝は霧が美しく、山々にたなびいています。会社に向かいながら漆の産地の静かな空気を味わっています。 今週は、前回までにご紹介した「前切」、「荒挽」、「仕上げ挽き」という挽物の工程を経て、ようやくできあがった木地の状態、「白木地(しらきじ)」についてご紹介したいと思います。
「白木地」は、純白というより乳白色をしているのですが、漆の塗られていない白木地を見ていますと、白さがいたいたしく感じられます。木は切られてからも生きているといい、薄く加工された白木地は、空気中の水分を含み歪みやすくなるので、白木地の状態で長く置かないようにして、すぐに漆を塗って空気中の水分吸収をシャットアウトします。漆は、素地の段階でも木の耐久性を高める役割を果たします。 ちなみに、白木地に何度も漆を塗り重ねて商品として完成したお椀の重さは120gになっていました。(白木地は100g)

061027
なお、挽物の工程で出た木屑は、昔は煮炊き用の燃料にし、燃やして暖をとって使っていたそうです。現在は、燃料やパルプ、集成材用として使うなど、昔も今も漆器づくりのために使われた木を少しでも無駄にしないよう、リサイクルを行っています。(宮川千次)