漆でカスタマイズ! Vol.65~68

「漆塗りの木剣」

今回から4回にわたり、お客さまからオーダーいただき当社で製作したカスタマイズ商品をご紹介させていただきます。当社では、お客さまご自身が使う大切なものや贈り物用として、漆をつかって世界に一つのこだわりの作品づくりをするお手伝いもしています。
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今回ご紹介するのは、「漆塗りの木剣」です。こちらは、慶應義塾大学合氣道部OB有志の皆様よりオーダーいただいたものです。素地となる木剣本体部分は、樫(かし)の材を使った岩田商会製の合氣道専用モデルで、普段の稽古の際は木目が見える状態で使われているものです。これに天然漆を何度も塗り重ね、最後に職人が手で磨きあげる漆塗りの最高峰「呂色(ろいろ)仕上げ」を施しました。本物の剣にも見えるような独特の美しい輝きを実現することができました。
また、飾り台は、塗り立て仕上げの漆の上に、(前回ご紹介した)「高蒔絵(たかまきえ)」とよばれる最高級の加飾技術を使って、慶應義塾のシンボルであるペンマークを描きました。ペンのふくらみや、重なりあう部分がしっかりと表現されています。
この作品は、越前の産地が誇る5人以上の職人たちの手により完成した、まさに「世界に一つの木剣」です。

「漆塗りスピーカーとランプ台」

お客さまからのオーダーにより製作したカスタマイズ商品として、今回は「漆塗りのスピーカー」と「漆塗りのランプ台」をご紹介します。漆器をご愛用頂いている個人のお客さまから「(自分の部屋の雰囲気にあわせて)既製のスピーカーとランブ台の木製部分に朱色の漆を塗ってほしい」と当社にオーダーをいただいたものです。
一見、木の部分にパッと漆を塗るだけのように思いますが、実際には、堅牢な漆器づくりと同じ工程を踏んで完成させます。既製の木製部分に施されている塗装をはがしたうえで、漆器と同様、下塗り→研ぎ→中塗り→研ぎという下地工程を繰り返します。お客様から見えない下地工程こそが、完成後の漆独特の上品な光沢と優しい風合いを引き出します。
最終仕上げとなる上塗り工程については、今回、スピーカーのほうを重箱など「角物」を塗る職人が担当し、一方で丸いランプ台のほうをお椀や皿など「丸物」を塗る職人が担当しました。器物の形や素材により職人が異なる漆器産地の「分業制度」のもと、今回のようなオーダーに応えてくれる職人選びも、完成度の高いカスタマイズ商品の製作には必要となります。

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「漆塗りの篠笛」

今回ご紹介するカスタマイズ商品は「漆塗りの篠笛」です。国内外で活躍し、福井の音楽集団「楽衆玄達(がくしげんたつ)」のメンバーでもある篠笛奏者、本禄和美氏より2006年春にオーダーいただきました。漆塗りの篠笛そのものは市販されているそうですが、漆器づくりの産地職人による「越前塗り」で、自分好みの美しい篠笛を完成させたいというご要望でした。
素材が竹で、かつ楽器に漆を塗るという仕事は、創業77年の当社でも未経験ということで、産地内のさまざまな職人の意見を聞きながらの試行錯誤の結果、器塗りのノウハウを活かした漆仕上げに成功。最後に、蒔絵職人の手により「楽衆玄達」の名入れをして、オーダーから約4ヶ月後の2006年8月にようやく完成しました。
本禄氏からは「漆を塗った篠笛は、音に優しさ、温もりがでる」とのお言葉をいただき、今回製作した漆塗りの篠笛を演奏活動でご愛用頂いています。 器づくりがメインの私共ですが、漆によるカスタマイズを通じて「音」という感性の世界や、それに携わる人たちとつながりができたことに、漆の未知なる力を感じています。

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「漆塗りの篠笛」が日中韓共同製作番組で紹介されました
http://www.yamakyu-urushi.co.jp/12/0701kasane/index.html

「オリジナル蒔絵」

2007031601今回ご紹介するカスタマイズ商品は、お客さまのお気に入りのデザインを蒔絵(まきえ)で表現した商品です。
「水上に立つロータスで、漆塗りの蒔絵ができるかしら」。個人のお客さまからご依頼をうけ、職人のなかでも優しい表現力で実績のある女性蒔絵師(冨田紀代美氏)とともに製作に入りました。最初は硯箱や手鏡、やがてティッシュケース、ワインホルダー、腕時計、携帯電話、ペーパーホルダーなど、漆工芸未踏のシリーズが続々誕生していきました。そのうち、「手鏡」「ティッシュケース」「ワインホルダー」は当社で商品化し、現在、弊社オフィスのある「ふくい南青山291」のショップにて、販売しています。

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2007031603また、このロータスの蒔絵デザインは、ジャーナリストの阿部重夫氏が書いた新作ノンフィクション「有らざらん」の表紙カバーにもなりました。
「本物の漆は、どんな器でもどんな媒体でもフィットする」。漆をつかって、お客さまのためのカスタマイズをお手伝いさせていただくたびに、強く実感することです。(山本泰三)