変わり塗り Vol.85~88

「目ハジキ」

こんにちは、千次です。日中の気温が高く、湿度も高い梅雨の季節は、仕上げの塗りを担当する上塗り職人はとても苦労します。漆が急激に乾きすぎることで、「ちぢる」という現象がおきるからです(第24回「漆がちぢる」ご参照)。漆がちぢらないように、漆を慎重に調整し、しっかり試験をしてから上塗りをします。この季節に仕上がった漆器は、職人の苦労を知ってか、より美しくも感じられます。
さて、伝統的な漆器の工程といえば、木の素地に下地加工を施し、「研ぎ」「中塗」を繰り返し、最後に上塗りを行うので、完成品は漆独特の光沢があり、木目は全く見えないものです。その他の技法として、木の表情(木目)を活かして仕上げる技法があります。今回は、その技法のひとつ「目ハジキ」をご紹介したいと思います。
通常、漆器は下地加工により木地の表面の凹凸を無くしていきます。「目ハジキ」は、木の素地に、木目を活かすための下地と上塗りを施し、木の導管部分に漆を埋めないで、木が持つ独特な風合いを表現します。「目ハジキ」の材は、導管の並びが美しい「欅(けやき)」「タモ」「栓(せん)」などの木が使われます。
20070713

「錆塗(さびぬり)」

湿度が高い梅雨のこの時期、漆器の世界では漆が早く乾きすぎて苦労していますが、同じく福井県の伝統的工芸品「越前打刃物」の世界でも、「錆(さび)」に悩まされているようです。鉄の表面に水分が付着して、通常よりも錆が急速に進みます。この時期は、打刃物業も漆器業も、湿度を上手に管理しながら仕事をすることが重要になります。
さて、「錆」というと漆器の技法の中に「錆塗(さびぬり)」という技法があります。通常の作業の一部を省くことで個性的な表情を見せる漆器の技法のひとつです。光沢のある一般的な漆器はおおよそ①木地②下地③研ぎ④中塗り⑤研ぎ⑥上塗りという作業工程になるのですが、「錆塗」は③と④が省略され、⑤の研ぎを軽くあて、②の下地の面に直接⑥の上塗りが施されます。「錆塗」という名称は鉄が錆びた状態に良く似ているために名付けられたという説もあるのですが、下地に使われる「漆錆(うるしさび)=砥粉(とのこ)を水で練り、生漆と混ぜたもの」から名付けられたという説が強いようです。
「錆塗」は、職人の手と「漆錆」の偶然の凹凸によって、独特の表情をみせる技法となっています。
20070720

「拭き漆(ふきうるし)と木地呂(きじろ)」

梅雨の空から、ようやく晴れ間がのぞき、セミの鳴き声が聞こえ始めました。欅(けやき)や桜などの木々も夏空のもと青々としています。
さて、今回は、漆塗り技法の中でも天然木本来の木目の美しさを見せる技法をご紹介したいと思います。器の素地(木材)には、特に木目の美しい欅・栃・桧(ひのき)・桜・楓(かえで)などを選びます。
技法としては、大きく分けて木の手触りが残る「拭き漆」と、漆の手触りの「木地呂」という2種類あり、一般的な光沢のある漆器づくりの工程(下地・中塗・上塗)とはすこし異なる作業になります。
「拭き漆」の技法は、木材に透漆を塗った後、拭き取り乾かします。これを何度か繰り返して仕上げます。
一方、「木地呂」の技法は、下塗・中塗・上塗として3回ほど透漆を塗り、最後に磨き仕上げをして、ツヤを出します。
ちなみに「拭き漆」の技法は、透漆と拭き取る布があれば熟練の技術がなくてもできる作業なので、誰でも手軽に漆器づくりを体験できます。ただし、くれぐれも漆カブレにご注意下さい。
20070727

「布目塗り(ぬのめぬり)」

夏になり、気温が高くなると綿や麻など天然素材の布で作られた少し大きめの服は通気性がよく、肌触りも優しいです。
さて、今回は漆の変わり塗り「布目塗り(ぬのめぬり)」をご紹介したいと思います。漆器づくりでは、欠けたり割れたりしやすい縁や角、お椀内部などの木地を補強するために、最初のほうの工程で布を張る「布着せ」を行うことがあります。通常はその後に中塗り、上塗りという工程によって漆を何層も塗り重ねていくので、最終的には漆器の表面に布目が出ないように仕上がります。一方、「布目塗り」は、布着せ後の中塗り、上塗りを薄めにすることで、あえて布目が表れるように仕上げます。「布目塗り」は、使う布によって様々な模様になり、また耐久性に優れ、キズが目立たないのが特長です。
(宮川千次)
20070803