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読売新聞 掲載記事「越前漆器に活路を~伝統の技広めたい」(抜粋)

2007/01/05

読売新聞(1月5日付・福井版32面)に掲載されました「越前漆器に活路を~伝統の技広めたい」の記事(抜粋)をご紹介いたします。

「人と向き合って心を通わせ、伝統の技を広めたい」
1500年の歴史を誇る越前漆器の産地、鯖江市河和田。伝統の里で創業77年の漆器製造販売会社「山久漆工」の3代目、山本泰三(36)は2004年12月、勤めていた大手都市銀行を辞め、家業を継いだ。
1993年、東京の大学を卒業後、都銀に入行。携帯電話などの端末から銀行取引ができるネットバンキングシステムなど個人向けの商品開発を手がけた。市場調査、PR方法、苦情受け付けなどのシステムを作った。
ただ、数字で客の希望を測る仕事に「心」のどこかに違和感があった。
「客が欲しいと思うものを調べ、商品化し、提供する。ものづくりにも共通する。でも、目の前で客が満足する姿を見て仕事をしたい」。そんな思いが募り、脳裏に小さいころから見てきた漆器職人の姿が浮かんだ。

生活様式の変化に伴う需要の停滞やグローバル化による低価格競争の影響で低迷を続ける漆器業界。景気好転の実感はない。90年代初期には1年間で同市の業界全体で150億円あった売り上げは、03年には60億円にまで落ち込んだ。
漆器業界の製造・流通は、小売り店から、商品の依頼を受けた問屋が製造販売会社に発注するシステムが受け継がれている。山本の会社は器の木彫り、漆塗りなどを担当する職人に、それぞれの工程を委ね、完成品を問屋に卸す。
低迷とともに問屋からの発注は減少。「職人の仕事がなくなれば、技を受け継ぐ人材を失ってしまう」
製造販売会社はどこも同じ悩みを抱える中、04年7月18日、福井豪雨で産地一帯は浸水や土砂災害に見舞われ、壊滅状態に。「逆に、頑張ろうという気持ちになった」。後を継ぐ決心がついた。

「首都圏で越前漆器の良さをもっと知ってほしい」
06年9月。首都圏での事業展開の足がかりに、東京・港区の福井県産業支援センター「ふくい南青山291」内に営業と市場調査の拠点を構えた。
汁わんに飯わん、はし置き、取り皿――。東京の自宅に漆器が入った箱が並ぶ。さながら展示会場の倉庫のようだ。
「天然の素材は直接触れてもらわないと良さはわからない」。自宅に客を招き、現物を見てもらうためだ。普段の生活にも漆器を使う。
妻が実際に料理を盛りつけ、客に使い方を紹介する。「使い方がわからないから扱いづらいイメージがあるだけ。実演して説明するのも売り手の仕事」
「まだ素人で新人」。東京と鯖江を往復する生活。地元では職人宅を回り、一から漆器の知識を学ぶ。学生時代は興味がなかった漆器の加工技術や強度、技法を職人から学ぶ毎日だ。
東京の友人から意見を聞き、新製品開発の構想を練る。これまでにない大きな丼も試作した。底が深く、漆黒のつやのある中をのぞいていると吸い込まれそうになる。
塗り師、真保直行(61)は「注文に何でも応じられるのが職人の実力だし腕の見せどころだけど、売ってくれる人が頑張ってくれないと作っても意味がない。若い人が戻ってくれて期待したい」。山本の懸命な姿を温かく見守る。
漆器は熱を伝えにくい保温力がある。自然の素材だから手になじみ、唇に触れた感触が優しい。「1500年も続いているのは理由があるはず。客が欲しいと思う商品を聞き、それを私たちがデザインし、職人さんに作ってもらう。暮らしに喜びをもたらすお手伝いをしたい」
                     (敬称略)