福井の匠と漆 Vol.101~104

「ちりとてちんの舞台・匠の技が集積する福井」

10月から放映されているNHK連続テレビ小説「ちりとてちん」は、ヒロインの実家が福井県小浜市の若狭塗箸職人という設定のため、全国の約8割の塗箸を生産する福井県が今、にわかに注目されています。地元の私たちが見ていると、内容の面白さもさることながら、女優さんたちが慣れない福井の方言を使って熱演している姿が初々しくも映ります。大阪と福井を舞台に今後の展開がとても楽しみです。
さて、若狭塗箸を生産する若狭・小浜では他に「若狭めのう細工」や「若狭塗」といった伝統的工芸品を生産しています。また、県内では他に鯖江市、越前市、池田町、南越前町、越前町といった隣接する越前の市町村の中に、伝統的工芸品の指定をうけている「越前和紙」、「越前焼」、「越前打刃物」、そして私たち「越前漆器」の産地があります。眼鏡フレームにおいては国内生産量の9割以上を鯖江市で製造しています。ものづくりの匠の技がこれだけ近くに集積している県は全国的にみても珍しいと言われています。次回からは「漆」をキーワードに、福井の匠の技についてご案内します。
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「越前和紙と歩む1500年の歴史」

伝統工芸品指定の「越前漆器」と「越前和紙」は、産地が隣接していて、車で20分圏内の距離にあります。そして、その歴史には共通して「1500年前」という表現がでてきます。巨大古墳時代の5世紀、血の争いを繰り返したヤマトの王権の後継者がなくなり、越の国(現在の福井県)にいた男大迹(おほど)王が迎えられました。後に継体天皇と呼ばれる大王の誕生が、この「1500年前」です。
伝承によれば、越前漆器は河和田(かわだ=現在の越前漆器の産地)の人々が、男大迹王に黒漆の食器を献上したところ、その色沢が極めて優美であったので大変お喜びになり、この地域の人々に黒漆の器をつくるよう奨励され、産地が形成されたといわれています。
一方、越前和紙は、同じく男大迹王がいた1500年程前に、美しい姫(上御前)が大滝(現在の越前和紙の産地)の岡本川上流に現れ、「清らかな水で紙を漉(す)き生計をたてるがよい」と里人に紙漉きの技を伝授したのが始まりと言われています。以来、里人のたゆみない努力によって紙漉きの技が伝えられています。
なお、全国唯一の紙の神様、川上御前を祀る岡太(おかもと)神社・大瀧神社の祭り「神と紙のまつり」は、福井県指定の無形文化財として、古いしきたりのまま今も受け継がれています。
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「越前打刃物」

700年の歴史をもつ伝統工芸品指定「越前打刃物」の産地である越前市も、「越前漆器」の産地(鯖江市)と隣接しています。「越前打刃物」は1337年(南北朝時代)京都の刀匠千代鶴国安が刀剣製作に適した地を求め、府中(現越前市)に来住し、そのかたわら近郷の農民のために鎌を作ったことから始まったといわれています。越前には、美しい水と刃物の材料が豊富で、そもそも鎌など暮らしのための鍛冶業が盛んだったところに匠の技が加わり今に伝わりました。現在も、「研ぎやすく、折れず、曲がらず、刃こぼれしにくい刃物」をめざして、最新のテクノロジーを融合しながら刃物づくりが行われています。
漆の世界でも刃物は重要な道具です。漆の木から樹液を採る際には、皮剥ぎ鎌や掻き鉋(かんな)、掻きヘラと呼ばれる刃物を使います。また、漆塗りに使う木のヘラは職人が自分にあった道具づくりのために刃物を使って製作します。第77回~第80回でご紹介しました「漆器の加飾・沈金」は、まさに刃物の出来が重要なポイントになります。
伝統の匠の技が永く伝えられるには、自然や周囲の産業など環境も大切な要素であると感じました。
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「越前焼と伝統工芸連携の動き」

伝統工芸品指定の「越前焼」の歴史は古く、今から850年前の平安時代に始まったといわれ、戦後、瀬戸・常滑・信楽・丹波・備前とともに日本六古窯の一つに挙げられています。釉薬(ゆうやく)を用いずに高温で焼成されるときに薪の灰が器に流れ出し、溶け込む自然釉の風合いで知られています。他の古窯が江戸時代に茶器などを焼いていった中で、越前は当初からの趣向を変えずに壺や甕、擂り鉢など雑器一筋で焼いてきたことから、一時は廃絶の危機に追い込まれました。1970年に越前陶芸村が作られたことを境に窯元が急増し、多くの観光客が訪れるようになりました。
「越前焼」「越前漆器」「越前和紙」「越前打刃物」の4伝統工芸産地が近く集まっている福井県では、近年、産地同士が連携を強めて、消費地にむけて一緒に発信していく取り組みに努めています。隣接しているからこそ1日でまわれる「伝統工芸体験施設めぐりバス」の試行や、おろしそばで有名な「越前そば」を<越前の刃物で切って、越前和紙のマットの上で、越前漆器や越前焼の器で食べる>といった越前づくしの食の提案なども行われています。日本が誇る伝統工芸を残し発展させていくためには、是非多くの方に産地に足を運んでいただき、匠の技を直接見て、知っていただくことが大切なことと考えています。
(山本泰三)
20071123

■伝統工芸体験施設めぐりバスについて
バス出発式の模様
施設めぐりの概要
※施設めぐりは現在試行中のため11月25日にいったん終了しますが、来年2月以降に消費地からの本格的な体験ツアーを計画中です。鯖江商工会議所のホームページ等にて発表いたします。
(鯖江商工会議所のホームページはコチラ