漆仕上げの最高峰 Vol.117~120

「蝋色(ろいろ)とは」

いくつもの塗り工程を経て、最後に完成品として目にする「仕上げ」の塗り技法には様々ありますが、一般的に私たちが目にする光沢のある漆器の多くは、上塗り職人が漆を塗って乾いた状態で完成とする「塗立(ぬりたて)」と呼ばれる技法です。これでも十分に艶やかで、高いレベルの技術が求められますが、さらに、ここからひと手間かけて、鏡面のように平らで、豊かな光沢のある仕上げにする技法が「蝋色(ろいろ)」です。呂色とも書きます。
蝋色は、「蝋色師(ろいろし)」と呼ばれる専門の職人が、国産の蝋色漆を使いながら磨きあげていく技法で、漆塗りの最高峰の仕上げとも言われています。残念なことに、昨今のライフスタイルの変化により、蝋色仕上げによる高級漆器の需要が減ったことをうけて、蝋色師の仕事が減少し、後継者問題が特に心配される仕事となっています。どのようにすれば、最高の技術を今に活かしながら永く技術を残していけるか、現在、当社でもさまざまなアプローチを行っているところです。

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「さらに研いで磨く手わざ」

鏡面のように平らで、艶やか光沢を出す「蝋色(ろいろ)」仕上げは、 簡単に言うと「一般的な<上塗りで完成>ではなく、 その後さらに研いで磨く」という技法です。この技法で仕上げるときには、 上塗りの際の漆として、油分を含まない透き漆や黒漆を使います。 上塗りを十分に乾燥させた後、次の4つの工程を行います。
油木炭と呼ばれる研ぎ炭で、表面を研ぎます。はじめは木目の細かな炭、仕上げは粗い炭を使うとよく研ぐことができます。
炭の跡を消して完全な平面にし、角(かど)の部分がきっちりたつように研ぎつける「胴刷り(どうずり)」をします。 油に砥の粉をまぜたものやコンパウンドなどを綿布につけて磨きます。
上質の綿で国産漆を使い、摺り漆をして研ぎ面にしみこませます。
乾いた後、手のひらに菜種油と鹿の角粉(つのこ)などをつけて、磨きあげます。
漆の表面を鏡のように美しく仕上げるためには、3、4の工程を数回繰り返します。
ちなみに、蝋色仕上げをせず、上塗りが乾いたら完成とする「塗り立て」は、 上塗りに油分を含んだ漆を使うことで塗ったままの光沢を楽しむ技法になります。

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「蝋色職人ができる技いろいろ」

研いで磨いて仕上げる技術の専門家「蝋色(ろいろ)職人」は、黒や朱といったシンプルな色で漆器に艶やかな光沢を出す蝋色仕上げ以外にも、その技術を活用してさまざまな仕事をしています。以下、高級品の漆器として私たちがよく目にする技法をご紹介します。
■梨地(なしじ)
梨地粉とよばれる金粉や銀粉を漆塗りの平面上に蒔いて上から透漆を施し、研摩して金や銀を浮き出させる技法です。仕上がりが梨の肌のように見えることからついた呼び名で、蒔絵職人が蒔絵の一部として行うこともあります。
■金虫食い塗り(きんむしくいぬり)
虫食い跡のように不規則にした下塗りに金箔を貼り、その上に漆を塗り重ねて研ぎだす技法です。
■乾漆塗り(かんしつぬり)
乾漆粉とよばれる粉を漆塗りの平面上に蒔き、ちりめん状の模様に仕上げていく技法です。乾漆粉は、漆をガラス板などに塗り乾いたら剥離し、粉状にしたものです。
■石目塗り(いしめぬり)
乾漆と同様の方法で木炭の粉を撒き、漆を塗り重ねて研ぎます。細かい石畳のように見えるので石目と呼ばれています。
このような技法以外にも、研磨技術をつかった様々な変わり塗りがあり、津軽塗(青森県)や若狭塗(福井県)など、変わり塗りを漆器産地の特長としているところもあります。研磨によって漆器が様々な表情に変化することは、意外に知られていないことかもしれません。

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「職人さんに聞きました」

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蝋色の伝統工芸士として活躍する竹内杏ニさん(75歳)に蝋色の仕事についてお伺いしました。
(聞き手:竹内亨/3月12日)

――なぜ蝋色職人の道を選んだのですか?
最初は別の仕事をしていましたが、体を壊して自宅療養しているときに、蝋色職人だった友達のお父さんに「うちで働かないか?」と声をかけられたのがきっかけでした。それから50数年ずっとこの仕事をしています。

――この仕事をやっていて良かったこと、面白かったことは?
地元で出来るということや、自宅で出来るということは気持ち的に楽なので良いです。

――この仕事をやっていて辛かった、大変だったことは?
ありません。

――蝋色でこだわっている部分、気をつけている部分は?
昔からの経験を活かし、漆の状態を見極めて作業しています。(ちぢって失敗する時とうまくいく時の塗り厚の違いなど)様々な事は全て漆が教えてくれます。

――蝋色職人の後継者について、どう思われますか?
作業工程の一から十までを全て一人で行わなければならないので、(分業制のように大量生産ができず)収入も限られています。わずかな収入しかないこの仕事を(今の若い人に)積極的にすすめることは難しいですね。1人ぐらいは後継者がほしいけど・・・。

越前の産地の中でも特に蝋色職人は、数名程度しかいなくなってしまったという状況です。見事な美しさを放つ蝋色の仕事の裏側には、職人の高齢化、後継者不足という難しい問題があります。世界に誇る漆の技術をこれからも残し発展させていくために、日本全国の幅広い層の方々にこの現状を知っていただくこと、そのため漆のさまざまな可能性に挑戦し、あらゆる方法で発信していくことが我々メーカーの使命であると考えています。(山本泰三)

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