漆器の扱い方を分析する Vol.121~124

「不安を感じる理由」

漆器に対するイメージというのはお客さまによって様々ですが、 「漆器は弱くて繊細なもの」と、取り扱いに不安を感じられている方が多くいらっしゃいます。 一方で、漆は自然界に存在する最強の塗料であり、木製は焼き物やガラスと違って落としても割れない素材であり、 永年使って剥げたり欠けたりしても修理ができるという漆器特有の「強さ」があります。 さらには合成樹脂素材でウレタンなど漆風塗料を使った製品であれば乾燥や紫外線にも強く、 もっと気軽に使えるはずです。不安になるイメージと、実際の製品との矛盾はなぜ起きてしまうのでしょうか?
その一つの原因として、「漆器」とひとことで言っても世の中にはさまざまな素材のものが溢れかえっていること、 その素材ごとに違う強さや弱さ、メリットやデメリットについて我々メーカーやお店側から お客さまに十分に伝え切れていないことがあるのではないかと考えています。
通常、漆器をお求めいただくときの製品と一緒に、簡単な漆器の取り扱い説明書がついていますが、 たいていの場合は全ての素材、全ての作り手の製品に共通して言えるもっとも安全な取り扱い方法が記載されています。 メーカー側の立場からすると全てのお客さまにご納得いただく方法としては一番適していますが、 なぜそうなのかの理由まで踏み込んだものは少なく、 読まれる方によっては「漆器はめんどうなもの」というイメージだけが先行してしまう可能性があります。 次回は当社の製品を材料にしながら、 取り扱い説明書ではわからない「漆器の扱い方」について可能な限り踏み込んで解説したいと思います。

■素材を明記した品質表示の一例(製品に添付)
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■当社の取扱い説明書
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「漆器の洗い方の理由」

お客さまから「漆器の洗い方」についてよくご質問をいただきます。焼物やガラスと異なり、塗り物である漆器は、洗い方が「剥がれ」「変色」「傷」の原因になるかどうかがポイントです。

「水で洗ってよいか?」
お椀に汁物をいれても漏れないように、漆は耐水性に優れているので全く問題はありません。ただし、火傷をするような熱いお湯を急激に使った場合に漆が変色する可能性があり、温水ならば、ぬるま湯程度で洗うことをおすすめします。 「洗剤やスポンジを使ってよいか?」
使う洗剤やスポンジが、表面に傷をつける材料かどうかで判断します。昔は研磨剤入りの洗剤が多かったようですが、現在の一般的な中性洗剤(研磨剤が入っていないもの)なら大丈夫です。スポンジは、非金属性の柔らかい素材のものをおすすめします。 「つけ置きをしてよいか?」
長時間のつけ置きは注意が必要です。気をつけるのは、洗う前に既に傷がある漆器です。漆が剥がれるほどの深い傷の場合、傷部分から水がしみこんで、素地の木を変形させ、その力で傷のまわりの漆をさらに剥がす恐れがあります。傷がついたら、早めの修理をおすすめします。

上記は、伝統的な「素地が木製」「塗りが天然漆」の漆器についての話です。「素地が合成樹脂」「塗りが合成塗料」の漆器製品であれば、素地の変形や塗料の変色を気にせず、より丈夫な器として取り扱いいただけます。最近は「食器洗浄機対応」の漆器製品もあり、漆器を洗うときは、最初に素材を確認することをおすすめしています。
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「なぜ冷蔵庫、電子レンジはダメなのか?」

料理を器に盛り付けたまま保管できる冷蔵庫、器のまま調理ができる電子レンジやオーブン、いずれも今の家庭には欠かせない電気製品です。しかし、「素地が木製」「塗りが天然漆」の伝統的な漆器は、「長時間の冷蔵庫での利用」「電子レンジやオーブンの使用」を禁止しています。
冷蔵庫の中は、食品にラップをかけないとカラッとしてしまうように、一般的に湿度が低くなっています。このような乾燥状態に漆器を長く置くと、素地の木製部分が変化し、ヒビが入ったり、形状に歪みができたりする可能性があります。
電子レンジは、食品内部の分子に電磁波の持つエネルギーを与えて加熱するしくみです。ガラスや陶器は電磁波が透過しますが、漆器は塗り面や木製部分に反応して電磁波が透過しません。漆器を電子レンジにかけると、塗り面や木製部分が食品と同様に熱くなり、蒔絵や沈金など金属粉をつかったものは火花が生じます。木製部分は燃えやすいので、オーブンも使用できません。
湿度を高く保つ機能のある冷蔵庫や、素地が乾燥に強い合成樹脂製品であれば、冷蔵庫の使用も可能です。電子レンジについては、合成樹脂製品でも溶解する可能性があり、「電子レンジ対応」「MICROWAVABLE」の刻印があるものかどうか確認するとともに、製品の取扱説明書を確認することをおすすめしています。
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「素材を判断する方法」

漆器は「素材が何か」「その素材の特徴は何か」を知ることによって、より扱いやすくなります。素地部分(塗りにより表からは見えない部分)が木製か合成樹脂かによって、以下の違いがあります。

<木製商品>
保温性が高く、断熱性に優れています。お椀に熱い汁を入れて手に持っても、肌に熱が伝わりにくく、熱さを感じさせません。また、温かいお料理も冷めにくくなります。
軽くて、木独特のぬくもりがあります。お盆やお椀など直接手にとる器の場合は、特にその良さが実感できます。
天然素材のため修理や塗りなおしが比較的容易にできます。

<合成樹脂商品>
急激な気候や温度の変化に強いため、乾燥などによる反りや破損が生じにくく、長時間冷蔵庫に入れても安心です。
木製品の断熱性や保温性、軽さなどには及びませんが、木製品に比べて安価でより気軽にお使いいただけます。

お客様に素地の種類を判別いただく手軽な方法としては、水に浮かべて浮くかどうか、器に熱めのお湯を入れたときに外側を触ってが熱く感じるかどうかで判断する方法等があります。購入時の品質表示を確認すれば間違いありませんが、「天然木加工品」という品質表示は、木粉を加工して樹脂で固めて成型した合成樹脂の扱いになるなど、紛らわしいものがあり、文字だけを頼りにするのも注意が必要です。
(山本泰三)
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