時代の変化とヒット商品 Vol.153~156

「根来と曙~昭和25年頃」

漆器の世界にも時代の変化とともに流行した「ヒット商品」があります。
戦後間もない日本では漆器が売れるような状況ではありませんでしたが、 昭和25年頃から徐々に復興がすすむとともに、漆器の需要も高まっていきました。 器の種類としては、お椀、お膳、重箱、弁当箱が多く生産されましたが、 この頃に流行したのが「根来(ねごろ)」、「曙(あけぼの)」と呼ばれる模様でした。
「根来」は、長い歳月使い込むことで上塗りの朱漆が擦れて下地の黒漆が浮き上がり、 趣ある抽象模様が出る漆器の特徴を生かし、それを研ぎ出しによって意図的につくる模様として確立したものです。 由来は和歌山県にある根来寺と言われています。「曙」は「根来」模様の反対で、 上塗りに黒漆、下地に朱漆を使い模様を研ぎ出す手法で、曙(=太陽が昇る明け方) に闇から光がさすような印象からこの名前がついたようです。戦後日本の復興期の印象と重なり、 商品のヒットにつながったのかもしれません。

20081031

「牡丹彫り~昭和40年代」

昭和40年(1965年)頃に登場し、いまでも人気が高いのが「牡丹彫り(ぼたんぼり)」という加飾技法でつくられた製品です。 器の表面に牡丹の絵柄を彫り、彫り跡に漆を摺り込んで金粉、銀粉や朱などの色粉を付着させて、絵柄にする技法です。 伝統的な加飾の「沈金」に近い技法ですが、何種類もの道具や色を使い分けて芸術的な絵柄に仕上げる沈金に比べて、 「牡丹彫り」は単色で1種類の彫り道具をつかって線画のように描く技法のため、比較的早く、効率的に製作ができ、 安価な点が特徴です。また、牡丹のデザインがシンプルなため、 器を選ばず応用性の高い模様として幅広い層のお客様に受け入れられました。
昭和40年頃といえば世の中は高度経済成長期の真っ只中で、国内需要が拡大し、 積極的な設備投資により安価で大量生産できる製品が市場に出回るようになりました。 漆器業界において大量生産に対応する素材(合成素地、合成塗料)が普及したのもこの頃です。 こうした時代の変化を背景に、 漆器の加飾方法も「牡丹彫り」など効率的で価格を抑えることができる技法が普及したのかもしれません。

20081107

「目ハジキ~昭和50年代」

昭和50年(1975年)頃に漆器産地でヒットしたのが「目ハジキ(目弾)」と呼ばれる塗り方です。 塗った表面に木目の筋のザラザラ感がはっきり出るような仕上げ方で、 「木目が漆を弾いたようにみえる」というのが語源のようです。
木を素材にした漆器づくりは、一般的に下地加工を施したあと「研ぎ」「中塗」により木地の表面の凹凸を無くしていきます。 「目ハジキ」は、凹凸のある木の導管部分に漆を埋めないような下地と上塗りを施し、 木目を活かした独特な風合いを表現します。木の材料には導管の並びが美しい 「欅(けやき)」「タモ」「栓(せん)」などの木が使われます。特に昭和50年頃に盛んに行われたのは、 漆の代わりに合成塗料のポリウレタンを使用する手法でした。吹付け塗装によって形状を選ばず、 大量生産も可能となり、木製でありながら低価格化を実現したことがヒットにつながりました。
高すぎず、安っぽくもないという「中ぐらい」「平均的」な漆器製品がよく売れたというのは、 この時代に求められた商品の特徴なのかもしれません。

20081114

「箸置き~昭和55年頃から現在」

食卓を飾る塗りの小物として「箸置き」があります。当社で開発して昭和55年(1980年)頃からヒットしたのが 「独楽(こま)の箸置き」です。箸を置くだけでなく、回して遊べる「遊び心」を盛り込んだ機能が多くのお客様に受け入れられ、 その後10年以上ヒットが続きました。
現在、当社製の「箸置き」で最もお客様にご好評いただいているのが「豆の箸置き」です。 ちょっと大きめで思わず笑みがこぼれる癒しのデザインと、お多福豆という縁起の良さが受けてヒットにつながっています。
近年、市場でヒットする商品に目をむけてみると、機能性に加えて「ストーリー」や「デザイン」が 強く求められる時代へと変化しているようです。箸置きの売れ筋が「回る箸置き」から「見て癒される箸置き」へとかわったのも、 時代の変化が背景にあるのかもしれません。(山本泰三)

20081121