世界的な大不況と言われている昨今ですが、お正月を前に日本のデパートの食材売り場では 今年お節料理の予約が大変好調というニュースが流れています。お正月は出かげずにお節を いただきながら家でゆっくり過ごそうとされるご家族が多いようです。
お節料理の器といえば漆器の代表格である「重箱」ですが、時代の変化とともにお客様が求める重箱の素材や形状が多様化してきました。
昔から大切に受け継がれてきた「本物」志向の重箱は、木製漆塗りを素材としたものです。 漆ならではの上質で温もりのある風合いと軽さ、傷んでも修理すれば半永久的に使えることがメリットです。 さらに漆の成分には滅菌作用があり、昔は料理を保存する箱として重宝されました。
木を使わず合成樹脂を素材とした重箱は、乾燥に強く料理と一緒に冷蔵庫に入れていただくことが可能です。 漆を使わないウレタン塗装による塗りとの組み合わせて価格を大幅に抑えることができ、 木製漆塗りと比べて気軽にお使いいただけるというのも利点です。
重箱の角の形状も丸みのあるタイプと角が立っているタイプがあります。伝統的な丸みがあるタイプは 「正月から角を立てない」という意味もあるようですが、最近のモダンなテーブルには角が立っているほうがマッチするということで、 いずれのタイプも人気があります。色はオーソドックスな黒、朱、溜のほかに、最近は白の重箱も人気が高まっています。
<参考コラム>
越前塗りの箱 Vol.69~72 「角の形」
あけましておめでとうございます。
本年も「掻きます!漆の話」をよろしくお願いいたします。
お正月のシーンに登場する「重箱」は漆器づくりの代表的な製品ですが、 平面を直角にくみあわせた箱(角物といいます)にムラなく漆を塗るという作業は、 丸いお椀を塗る作業とは異なる高度な技術が必要であり、角物専門の職人がいます。 まっすぐな平面の塗りは特に垂れやムラが目立ちますので、腕の差がはっきりとわかります。
漆器業界において越前は角物塗りを得意とする職人が比較的多い産地といわれてきました。 しかし最近のライフスタイルの変化により、重箱ニーズの減少や素材の多様化によって、 本格的な木製漆塗りの角物職人の仕事が減り、近い将来、職人の高齢化と後継者問題が深刻になりつつあります。 後に続く若い職人の技術レベルを向上させて、さらに後世に技を継承していくには「仕事」が必要であり、 そのためには消費地において漆塗りの箱の「需要」を掘り起こしていくことが必要になります。 今のライフスタイルと漆塗りのメリットをどう組み合わせて製品化しお客様にご提案するか、 私たち漆器メーカーとしてすぐにも取り組むべき課題であると考えています。
当社では、従来の「重箱=お正月」という固定的なイメージにとらわれず、 「1年を通じて使えるデザイン」「モダンなライフスタイルに溶け込むデザイン」を テーマとした商品開発をすすめています。天然素材と合成素材それぞれが持つ強みを最大限にいかすことを重視し、 リーズナブルで普段使いしやすいお手軽ラインと、現代技術と伝統技術の融合が成せる高級ラインをご用意。 お客様の漆器との付き合い方にあわせてお選びいただける重箱づくりを目指しています。
お手軽ラインとしてご好評いただいている「白の重箱」は、漆の風合いを持たせたウレタン塗装ですが、 あえて漆では表現できない温もりのあるホワイトを使用。 素材には、乾燥に強く変形の心配がない合成樹脂素材をベースにし、低価格帯でのご提案をしています。
一方で、天然板を組み合わせた素地に天然漆を施すという木地職人と塗り職人の優れた 伝統技術による高級ラインとして、昨年「Kasane HACO 風」を発表。 こちらは、ウレタン塗装や合成樹脂の成型加工では実現不可能なデザインを追求しています。 重箱の側面に最新3次元加工を施し、絵柄を入れなくても漆塗りだけで新しい表情を見せるデザインにより、 使わないときはしまい込まずオブジェとして飾っていただけるような器をめざしました。 「一器多用」であることは、現代のライフスタイルに必要不可欠な要素と考えています。
こうした新しい取り組みには「塗りものをもっと身近に感じて欲しい」 「職人の技をこれからの時代に残したい」という私たちメーカーの強い思いをこめています。
※当社ショッピングサイトにて「白の重箱」を販売しています。 ご購入はこちら。
当社では、このたび最も堅牢で鏡のように美しい伝統的な重箱製作方法である「本堅地(ほんかたじ)」「呂色(ろいろ)仕上げ」技術を生かした「ヒュミドール(葉巻入れ)」と「アトマイザー(香水入れ)」を製作、商品化しました。
ヒュミドールとは葉巻が乾燥しないように保管するための箱のことで、葉巻愛好家の方が特にこだわる道具のひとつと言われています。ほとんどが輸入品ですが、こだわりの道具に日本が世界に誇るこだわりの漆塗り技術をいかそうと、伝統工芸士3名(木地・塗り・呂色)が結集。究極の分業体制にて製作し、「本堅地」「呂色仕上げ」という重箱製作の最高峰の技法で仕上げました。さらに内箱の素材に国産桐材を使用するとともに、蝶番には硬く強度がある高級木材「紫檀」を使用。細部にいたるまでのすべてが天然素材、匠の技による製品となっています。
30センチほどのサイズのヒュミドールに対して、香水を入れて持ち歩くアトマイザーは6センチ程度の小さいサイズですが、ヒュミドールと同様に「本堅地」「呂色仕上げ」による最高技術で製作したものです。「持ち歩く漆」をテーマに、こだわりの器に香りをいれて最高の「漆塗り」を自慢していただきたいという思いで製作しました。
こうした取り組みは、葉巻や香水を好まれるハイクラスのお客さまに漆工芸の最高技術をご提案することを通じて、漆塗り技術のイメージ向上を図るとともに、食卓に限らず、あらゆるシーンで漆を活用できることをお伝えし、日本が世界に誇る伝統技術の継承につなげていきたいという思いによるものです。(山本泰三)
※「漆香器」専用サイトはこちら(製作風景が映像でご覧いただけます)
http://www.shikkouki.com/