コラボレーション Vol.177~180

「越前塗り×異業種伝統工芸」

近年、コラボレーション(collaboration)という言葉がよく使われるようになりました。協力、協調、共同制作といった意味がありますが、ものづくりの世界では商品の共同開発や販売協力によって市場競争力のある新たな付加価値商品を生み出すとともに、相互の販路を活かして市場を大きく開拓していこうという取り組みです。よって単純に足し算をしただけの「組み合わせ」商品は、私たちがめざすコラボレーションとは違うものと考えています。
今回ご紹介するのは書道用筆生産で日本一といわれる広島県「熊野筆」とのコラボです。「熊野筆」と「越前塗り」は業種も産地も全く異なりますが、伝統工芸産地における職人との関係、商品流通のしくみ、ライフスタイル変化の影響をうけやすい業種であることなど、悩みや今後の課題がよく似ています。その中で「相互の強みを活かしながら新しい市場を開拓していこう」という思いが一致した筆メーカーの「穂乃伊堂」と当社のコラボが実現し、赤ちゃんが生まれて最初にカットする美しい髪の毛でつくる「漆塗り赤ちゃん記念筆<ほころ>」の開発に至りました。昨年夏、熊野筆側の本迫謙二常務(㈱ほころ社長)と越前塗り側の私で一緒に産婦人科の病院を訪問し、出産記念品として「ほころ」PRのお願いをしてまわりました。当然ながら二人とも産婦人科でのセールスは全く初めてで慣れない状況でしたが、何か新しい市場への手ごたえのようなものを感じた瞬間でもありました。

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■ ほころ専用サイトはこちら
■ 5月14~26日まで、東京・新宿リビングデザインセンターOZONEにて、展示会「漆×美 展」で漆塗り赤ちゃん記念筆を展示します。詳細はこちら

「越前塗り×デザイナー」

これからの時代の「売れるものづくり」には、作り手とデザイナーの関係においても「コラボレーション(collaboration)=協力、協調、共同制作」の考え方を相互に共有することが重要と考えています。デザイナーの強みを作り手が生かし、作り手の強みをデザイナーが引き出しながら新たな付加価値商品を生み出すことで、デザイナーと作り手それぞれのファンに喜んでいただける製品が完成します。
今回ご紹介するのは、ギリシャ神話をテーマにした画家として著名な千葉政助氏とのコラボです。太宰治「走れメロス」の教科書の挿絵や渡辺淳一「化粧」、阿刀田高「私のギリシャ神話」など有名な著書の装丁などに使われている千葉氏の作品は、私たちがどこかで目にしたことがあるものばかりです。
ギリシャ神話をベースにしながら和の文様を取り入れた千葉氏の画風は高級美術漆器に使われる伝統的な「蒔絵」の世界と大変近いということで、このたび漆塗りのコラボが実現しました。熟練の技術を必要とする蒔絵作業は蒔絵職人の手に任せる一方で、職人の技術にあわせて千葉氏が新たに蒔絵のための絵柄をデザインしているところが完成度の高い製品となっているポイントです。こうしたコラボにより千葉氏にとっては作品の領域が大きくひろがるとともに、私たち漆塗り業界では衰退しつつある「蒔絵」の世界に新たな可能性がうまれたといえます。

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■ 千葉政助オフィシャルサイトはこちら
■ 「蒔絵」については第61~64回のコラムご参照

「越前塗り×化粧分野」

当社では、「コラボレーション(collaboration)=協力、協調、共同制作」によって、食卓の器以外にも日々の生活に漆のすばらしさを伝える様々な取り組みをはじめています。今回ご紹介するのは「化粧」に関するコラボ。漆独特の「優しい風合い」「ぬくもり感」「高級感」により日々の化粧シーンをより優雅に演出してくれたら、という期待を込めた取り組みです。
資生堂の子会社でありセレクトショップのパイオニアとして常に新しい価値観を創造してきた㈱ザ・ギンザ。このたびザ・ギンザと当社にて「THE TAKUMI」シリーズを共同開発しました。「ザ・ギンザの審美眼で選び抜いた日本が世界に誇れる匠の技」というテーマで開発した本漆塗りのメークボックスとコットンボックスは、モダンなライフスタイルにおいても「漆の伝統」が見事に調和することを証明する製品です。
舞台・映画・TVなどプロ用化粧品の専門メーカー㈱三善と共同開発した漆塗りの化粧用具「粧漆器(しょうしっき)」は、難しい技術とされるプラスチックや金属へ漆塗り加工を施したシリーズ。さらに「桜尽くし」「宝尽くし」「花尽くし唐草」という古来から日本人に愛されてきた伝統的な絵柄をモダンにアレンジしました。漆の伝統を持ち歩いていただきたいという思いを込めた製品です。
異なる業種でそれぞれ「完成された美」をめざす漆の分野と化粧の分野ですが、筆や刷毛を使って塗りや加飾を行うこと、黒や朱などの色の元となる顔料が同じこと、平安時代の貴族から発展した歴史的背景など意外な共通点があります。今回のような異業種コラボによってお客様にそれぞれの分野をさらに深く理解していただける機会になればと考えています。

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■「THE TAKUMI」「粧漆器」を手にとってご覧いただける展示会「漆×美 展」を開催します。
(5/14~26新宿パークタワー)~詳細はコチラ

■㈱三善、㈱ザ・ギンザから講師をお招きして開催する連動セミナー「化粧に学ぶ伝統とモダン・美の暮らし」
(5/14、5/21新宿)~詳細はコチラ

■コラボ製品に関する詳細は以下をご覧ください)
・㈱ザ・ギンザ 公式サイト
・㈱三善 公式サイト

「越前塗り×ジュエリー分野」

今回ご紹介する漆の「コラボレーション(collaboration)=協力、協調、共同制作」はジュエリー分野です。漆とジュエリーいずれも「高級品」というイメージで共通していますが、素材の相性という点で「ジュエリー=貴金属」、「高級漆器=天然木素材」という違いがあるため、単純に金属部分に漆を塗ったり、逆に天然木のリングに宝石をのせるといった足し算では、相互のよさを引き出せない(むしろマイナスになる)という課題があります。
しかしながら、ジュエリー市場と漆器市場はお買い求めいただくお客様層や開発・流通のしくみなど似ている点が多く、デザイン面やストーリー性で工夫することにより市場に新たな価値を提案できる可能性が十分に考えられます。当社では、約3年前からジュエリー開発メーカーの㈱コロラット・コレクチェ社と協業し、様々な「漆塗りジュエリー」の試作を続けてきました。「安価なアクセサリーではなく、高級なジュエリーを」にこだわり、金属では実現できない天然木の軽さと温もり、漆の奥深い艶というプラス面をジュエリーに最大限に生かすことをコンセプトに取り組んでいます。こうしたコラボによる私どもの効果としては、新たな市場開拓とともに、大変精緻なチェックが常識のジュエリー分野に漆器メーカーが取り組むことで漆器職人の技術力やメーカーとしての品質管理能力の向上が図れることがあげられます。また、ライフスタイルの変化により漆が忘れられようとしている昨今「ジュエリーとして漆を身近に持ち歩き、まわりの人に漆を自慢していただくこと」による漆器へのお客様の回帰ということも狙いにあります。(山本泰三)

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■5月14~26日「漆×美 展」にて、漆塗りジュエリーの新作商品を発表いたします。 (詳細はこちら)
■㈱コロラット・コレクチェ 公式サイトはこちら
■コロラット社と取り組んで製作したジュエリーに関する新聞報道記事(抜粋)
http://www.yamakyu-urushi.co.jp/12/071009/index.html