漆器購入時の素材選び Vol.193~196

「修理ができる素材」

お客様が漆器を購入する際にチェックしていただきたいポイントは「漆器がどういう素材か」という点です。大まかには「『素地』が天然木か合成樹脂か」「『塗装』が天然漆か合成塗料か」の2点になります。いずれも漆器コーナーで販売されていて見た目にもほとんどかわりませんが、合成樹脂や合成塗料の木製風、漆風の器を含めて「漆器」と呼ばれているのが現状で、素材の種類はお店の方に聞くか製品と一緒に表示されている法定品質表示で確認ができます。購入時に素材の特性を知っていると、上手なお買い物ができます。
「修理しながらでも半永久的に使いたい」というお客様には素地が天然木、塗りが天然漆の製品がおすすめです。自然界における最強の接着剤といわれる漆は、特に天然木素材との相性がよく、割れたり欠けたりしても漆を接着剤代わりにしながら完全な補修ができます。さらに修理した上から新品同様に塗りなおしを行なうと、結果的に塗り重ねる回数が増えることになり新品を購入した時よりも丈夫な漆器へと生まれ変わることになります。製品に対する愛着も増し、使い込んで良さが増す革製品と同じような感覚があります。
天然漆、天然木素材の製品は価格としては最も高い分類になります。大量生産かつ塗装回数が少ない合成樹脂および合成塗料の商品に対して、天然素材の製品は木を1個1個加工して素地をつくり、何人もの職人が何度も塗り重ねていく生産工程がその理由です。たとえば同じ形をした合成素材の汁椀で1000円程度のものが天然素材で6000円以上という感じです。合成素材は補修が難しい上に購入費用より修理費用が高くなってしまうので、買い替えたほうがよいという話になります。修理しながら永く使い続けることの良さを考えると、天然素材の価格の見方も変わってくるかと思います。

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「冷蔵庫に入れて使える素材」

料理を盛り付けた器をそのまま冷蔵庫に入れて保存することは多くのご家庭で日常的におこなわれていますが、漆器を冷蔵庫に入れる際には素材によって少し注意が必要となります。
素地が天然木の商品は乾燥によって内側の水分量が変化し、反りやゆがみ、ヒビや割れが発生する可能性があります。冷蔵庫の中は一般的に湿度が低く乾燥していますので、木製素材の漆器については長時間冷蔵庫にいれておくことを避け、少し手間がかかっても他の器に移し替えて保存することをお勧めしています。ただし漆塗りの器は永く使い続ける一定の耐久性はあるので神経質になりすぎる必要はなく、たとえば料理を盛り付けて食卓に出すまでの数時間冷蔵庫にいれておくといった使い方なら問題はありません。
一方で素地が合成樹脂のものは乾燥による変形の心配が全くないので長期間冷蔵庫にいれておいても問題ありません。気軽に使えることを理由に普段使いの重箱などはあえて合成樹脂素材のものを選ばれるお客様も多くいらっしゃいます。ご家庭によって器の使い方は様々ですので、ぜひ素材の特徴を知った上でご家庭にあった漆器選びをしていただきたいと思います。

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「ご予算から選ぶ素材」

漆器購入時のポイントの一つが「ご予算」です。「汁椀」「重箱」などお求めの商品が具体的に決まっている場合は、ある程度ご予算にあわせて素材選びができます。ただし蒔絵や沈金などの加飾は価格を大きく変える要素があるので、絵柄などが無い「無地」の場合でご説明いたします。
当社の製品の場合、たとえば1客5,000円以下でお求めいただける「汁椀(=蓋が無いもの。大きさは標準サイズ)」というと、素地が合成樹脂のもの、もしくは海外から半製品を輸入して日本で再加工した木製素地の商品になります。国産の木地を使いさらに何工程もかけて漆を塗り重ねて作る木製漆器は5,000円以上の価格がつきます。
「重箱」は大きさにより値段がかわります。材料費以外に職人の作業効率が悪くなるなどが要因です。木製漆塗りの三段重ですと一番小さい4.5寸(約13センチ四方)で2万円後半~、平均的サイズの6.5寸(約20センチ四方)で5万円~という感じです。三段重は蓋と本体で合計4つのパーツから構成されていますので、木製漆塗りの汁椀が1客(1パーツ)5,000円以上することから考えると2万円後半~になることはおおよそご理解いただけるかと思います。よって、ご予算が1万円以下の場合には合成樹脂の重箱をお勧めしています。
素地が木製か合成樹脂で価格が変わるのは、ひとつひとつ木を加工しその上に何度も漆を塗り重ねる手間と大量生産による合成樹脂の素地に少ない工程で塗装をする手間との違いがコストとして価格に反映するためです。最近の傾向としては、原油価格の高騰による合成樹脂素地の値上がりや中国などから輸入する半製品の値上がりにより、国産木製品以外の商品が値上げの方向にあります。

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※当社商品はホームページ「商品カタログ」からご覧いただけます。
http://www.yamakyu-urushi.co.jp/products/

「ご提案する際の心がけ」

漆器は「漆の器」と書くにもかかわらず、合成塗料による「漆風」のもの、素地が天然木ではなく合成樹脂を成型したものもすべて漆器売り場にならんでいるのが現状です。
漆器を購入されるお客様もさまざまで「木製・本漆でなければ漆器ではない」という方もいれば、「安くて気軽に使える器として合成塗料・合成樹脂でも十分」という方もいらっしゃいます。
漆と合成塗料の違いの一つに「漆は変色する」という点があります。変色というと悪いイメージもありますが、永く使うほどより深い色合いに変わっていくとか、個性がでてくるというと良いイメージになります。合成塗料は良くも悪くも変色が無いというのが特徴で、お客様によっては「だから扱いやすい」という方もいれば、「愛着がわかない」という方もいらっしゃいます。
個人ニーズが多様化してきた昨今、私どもメーカーとしては、どちらがよいとか悪いということではなく、お客様の価値観や用途に応じて素材を選んでいただける正しい情報を提供することを心がけています。そのため当社では商品を扱うお店にて勉強会を開催したり、自社ホームページやカタログなどを通じて、それぞれのメリット、特徴などをお客様に直接発信することを行なっています。(山本泰三)

20090828

漆器の素材に関するページはこちら
http://www.yamakyu-urushi.co.jp/shikkicat/material/