海外における日本の漆器 ~上海を 訪ねて Vol.225~228

「テスト販売での反応」

連日のニュースでも報道されているように中国経済は急激な成長曲線を描いています。 特に上海は2010年5月から開催される上海万国博覧会にむけて急ピッチでさまざまな インフラ整備が進み、世界各国から人・物・金が集まっている状況です。こうした中で 日本政府(中小企業庁)の事業としてクラフトや食品を中心とした日本製品のテスト販売 イベントが3月12日より現地・上海市内の高級百貨店で開催され、当社も日本で売れ筋の 漆器製品の一部をならべて、来場した中国人のお客様や中国人販売員の反応などを調査しました。
上海で最大規模を誇る百聯グループの百貨店の一つ「百聯西郊購物中心」でテスト販売を 行った当社は、「ワインホルダー」「サラダボウル」「サーバー」の3種類を黒(溜)と白の二色で テスト販売しました。ワインホルダーは「バランスで自立するアイデア商品」「本物の漆独特の艶」、 サラダボウルとサーバーは「中国の磁器にはない軽さ」「都市型の食事にマッチするモダンな塗り」を PRのポイントにして中国人の販売員に説明し、積極的な売り込みをお願いしました。反応としては、 色はどちらかというと真っ白よりも溜のように朱の色が入った色が好まれること、日本では高級な イメージがある「漆」の価値を評価できるお客様は少ないこと、また価格面についてほとんどの人が 「自分で使うには2倍ぐらい高い感じがする」「ギフトむけなら検討できるかも」といった感じでした。 中国では海外からの製品に関税などさまざまな税金がかけられるとともに、日本からの輸送費などコストも 増えるため、販売価格もケースによって日本の1.5倍から2倍近くなります。今回のテスト販売では 、景気がよいといわれる中国でも日本の漆器をそのまま持ってきて販売するにはさまざまな課題があり、 中国むけに十分な検討を行う必要があることを強く感じました。
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「MADE IN JAPAN の価値」

中国では高所得者層を中心にMADE IN JAPAN の製品を選んで購入する傾向があるという情報を知り、私は上海市内の 高級百貨店「久光」、日系の「梅龍鎮伊勢丹」、売り上げトップの「八佰伴(旧ヤオハン)」を訪問してみました。
実際に百貨店の各売り場を歩いてみると、「MADE IN JAPAN」「日本製」を強調して商品を陳列しているお店が目立ちました。 「MADE IN JAPAN」にどういう価値があるかを現地の人にたずねてみたところ、「信頼」「品質保証」「安全性」という言葉が かえってきました。特に食品などへの期待が高い様子でした。
「伝統的なMADE IN JAPAN =<日本の漆器>が百貨店でどう扱われているか」をチェックしようと食器売り場を訪ねましたが、 日本の漆器を取り扱っていたのは「久光」だけで、種類はお椀やお盆が数点、素材はすべて合成樹脂製品、価格も日本より割高 でした。訪問時の売り場の雰囲気からは、漆器が特に売れているという印象はうけませんでした。
需要が減少傾向にある日本の漆器産業の立場からすると、成長が著しく人口も日本の10倍という中国は市場として魅力 を感じる一方で、MADE IN JAPANが評価されても日本の伝統文化に関心が高まっているわけではないということを今回の上海 訪問で強く感じました。
中国に限ったことではありませんが、海外で日本の漆器の普及をめざすためにはそのままの形で持ち込む だけでなく、日本の優れた技術や信頼をどのようにいかしてその国のライフスタイル、ニーズにこたえるものづくり、価値づくりが できるかが重要であると実感しました。
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「デザイン製品への関心」

今回の上海訪問で強く感じたことは、上海市内のインテリアショップや雑貨店等での モダンな「デザイン製品」への関心の高さです。急激に都市化が進み、建築やインテ リアに関連して世界各国からデザイナーや製品が集まっていることも影響している と思われます。マンションの購入ブームといわれる上海では、新しく購入したマンシ ョンの内装から自分流に設計していく過程があり「部屋の雰囲気にあわせて、使う製 品を選んで買う」というモノの買い方が増える傾向(=ニーズの多様化)も流れとし てあるかもしれません。
私が訪問したデザイン雑貨店「品味・品位 PinWei(場所:老場坊)」は、製品デザイナーとメーカーが協力して開発した製品を展示し、販売先となる小売店バイヤーにPRしたり、製品開発のノウハウを生かして新たなパートナーを広げていく場として活用されているお店です。上海市も支援しているこのお店の店内では、中国国内だけでなく日本を含む海外の製品も紹介しており「国際都市・上海」としての取り組みを見せる場所としても活用されている印象をうけました。デザイン製品への取り組みで先行する先進国と比較すると消費地としての上海はまだこれからという感じではありますが、ここ数年の急激な成長と人口数で圧倒的な規模を誇る中国市場が数年後にどのように変化していくかということはしっかり注視していく必要があると感じました。今回、このお店のマネージャーとお会いし、当社がデザイナーと取り組んでいる日本の漆器製品を見ていただきながら意見交換を行いました。日本の漆の魅力をデザインにのせていくことで中国において日本の漆器づくりの技術が生かせる可能性を感じるとともに、日本と同様、購入者に漆の価値が伝わるようにお店側にもしっかり伝えていく努力も重要であると思いました。
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「漆器専門店が扱う製品」

今回の上海訪問にあわせて、市内でもっとも品揃えがあるという「漆器専門店」を訪ねてみました。このお店では 自社でデザインから生産管理、販売までおこなっており、アイテムとしては漆製の絵やジュエリーボックスなどイ ンテリア、小物関係がほとんど、日本のように食べ物を盛りつけるお椀や重箱など「食器」の取り扱いはありませ んでした。 話を聞いてみると、販売先としては主にホテルやレストランとのことでした。日本で生産した漆器の取り扱いはな く、すべてベトナムや中国の漆器産地で生産したものでした。陳列してある製品を見る限りでは塗りや加飾の仕上 げはとてもきれいでデザインも形状もしっかりしており、すべてが木製素材ということでいうと価格も日本に比べ てかなり安いという印象をうけました。
お店のオーナーに日本の製品についての印象を聞いてみたところ、「棗(なつめ=お茶の道具のひとつ)のように 木を限界まで薄く正確にくり抜く技術は日本でしかできない」と認めつつも、「現在、日本で普及している漆器の ほとんどの形状、塗り、加飾は中国で安く生産できる」という答えがかえってきました。中国やベトナムでは特 に木(素地)の加工費用が安いという点が最終価格に反映しているようです。
なお、中国における<漆>の文字には日本でいう化学塗料も含めて<塗料全般>という広い意味があるようです。 細かく区別する際は、本物の樹液から採取した漆は「生漆」「天然漆」など、化学合成塗料は「腰果漆(カシュー)」 「油性漆」「金属漆」などと表記されるようです。中国で漆器専門店を訪問する際にはこうした表記の違いについて 知っているとまた商品の見方もかわってくるかもしれません。
(山本泰三)
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※参考文献:漆とジャパン(三田村有純:里文出版)