漆で直して蘇る Vol.241~244

「漆塗りの座卓」

現在のように合成素材や合成塗料が普及していなかった時代には、漆器以外にも毎日の生活に使う道具や家具、建材などで 木の素材に天然漆を塗って仕上げたものが溢れていました。100%天然素材の漆塗り製品のメリットは、傷んだ部分を直 してまた新品のように使い続けることができる点です。
水や熱への耐久性を考慮した漆器づくりのノウハウは、器以外の製品にもそのまま活用できるため、漆器メーカーである当 社でも様々な漆塗り製品について修理等のご相談をいただきます。先般、「自宅のリフォームにあわせて、古くから大事に 使ってきた<漆塗りの座卓>を修理したい」と直径160センチほどある円形の座卓についてご相談をお受けし、現在修理 をしているものがあります。お預かりしたときは、表面に熱いヤカンを置いたと思われる痕があり、塗り面には細かいヒビ があるなど傷みが激しかったものの、元々の工程を確認すると下地からしっかりした堅牢な工程でつくられていて補修も順 調にすすみました。
一般的に修理を依頼されるお客様が気にされることは「いったい、いくらで直せるのか」「期間はどれぐらいかかるのか」 という点です。当社では現物を拝見しながら傷み具合や元々の工程を確認し、修理のレベルごとにお見積もりと納期をご提 示します。修理のレベルには、傷や剥がれなどの部分的な塗り直しから木の素地の欠損や割れ目の補修を含めた全体的な塗 りなおしまでありますが、いずれもすべて漆器製作のノウハウを生かして行われます。

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「お店の看板」

当社では、木製素材への漆塗りのノウハウを生かして、様々な修理のご依頼にお応えしています。数ヶ月前、飲食店を経営 されているお客様から「お店の看板を塗り直してほしい」というご相談をいただきました。実際に現場にお伺いして状況 を確認してみると、屋根が無く風雨と紫外線が直接当たる場所に看板が設置されていて、木の素材の劣化が激しく、塗装部 分は剥がれが多く見られました。修理にあたっては見た目にきれいに直すことに加えて、今後劣化がすすみにくくなるよう 「強化する修理」をお客様におすすめし、看板をお預かりしました。
当社の工房では、まず全体をペーパーで研いで傷面をきれいにした後、一般的な塗りものと同様、錆塗りと錆研ぎという作 業を3回繰り返しました。今回は傷みが激しい木目部分を美しく見せることに重点をおくため下地にサンディングシーラー と呼ばれるクリア色の合成塗料を使用しました。文字部分についても3回塗りと研ぎを繰り返しました。最後に風雨と紫外 線から守るために全体をトップコーティングする塗装を行ないました。
当社では、お直しする製品の使用方法や使用環境、修理前の状態に応じて、天然漆だけでは十分な補修ができないと判断し た場合には、漆塗りのノウハウを生かしながら合成塗料を組み合わせた修理もご提案しています。このあたりは、強度が求 められる業務用漆器づくりで全国シェア80%を誇る越前漆器の産地のノウハウが生かされています。

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「アンティーク(骨董品)のお直し」

古くても希少価値のある製品のことを「アンティーク(骨董品)」と呼び、最近はアンティークショップを訪ねて購入する 方法以外にも、インターネットのオークションサイトを使って手軽に骨董品を入手できる時代になりました。 特に日本製の骨董品には木を素材にして漆塗りを施しているものが多く、こうした製品は多少の傷や割れがあっても、漆を 使った修理により見事に蘇り、新品のように使用できるようになります。当社でも時々、骨董品クラスの修理のご相談をお 受けすることがあります。
お預かりする骨董品を拝見して思うことは製品デザインの美しさです。不便だった一昔前だからこそ表現できた「用の美」 のようなものを感じることができます。そして、修理してみてわかる技術の高さです。木や漆など天然素材しかなかった時 代だからこそ天然素材を最大限に生かし、長持ちさせるための技術が盛り込まれています。近年、機械化による大量生産や 合成素材の使用により安価な製品が増え、使い捨ての時代になりましたが、こういう時代にこそ骨董品に目をむけてみると 、そのこだわりのデザインや技術に接して、「モノを大切にしなければならない」という気持ちになります。
修理のご依頼をただいたお客様のように、「手にいれたアンティーク品を漆塗りで蘇らせる」というやり方は、これからの 時代の「粋な」モノとのつきあい方かもしれません。

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「焼き物を漆で直す<金継ぎ>とは」

「金継ぎ(きんつぎ)」は、割れたり欠けたりした陶磁器を漆で接着し、継ぎ目に金粉などを蒔いて飾る日本独自の修理法です。 茶の湯が盛んになった室町時代に発祥したといわれ、金継ぎによって価値が高まる場合もあるようです。当社では、蒔絵職人の 仕事としてお直しの相談をうけています。
金継ぎの工程は基本的には以下の方法で行ないます。お直しした部分が再度割れたり欠けたりしないように、職人それぞれの経 験や工夫によって作業します。
割れた破片は、糊漆(米糊と生漆を練ったもの)を使って接着する。
欠けた部分は、刻苧漆(こくそうるし)で修復し、場合によっては錆漆で埋め、乾燥したら砥いて平らにする。刻苧漆とは、 糊漆と木粉を混ぜ合わせたもの。木粉は、栃や欅等のとても薄いカンナ屑を手で揉んで細かく粒子状にしたものを使う。
修復した箇所に漆を塗り金粉などを蒔く。
金継ぎは、「漆は最強の天然接着剤である」という特性を生かしたお直し方法です。割れたり、欠けたりした陶磁器が漆で修復 できることは意外と知られていません。ぜひお手持ちの大切な焼き物を金継ぎで蘇らせてみてはいかがでしょうか。(山本泰三)

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