つくり手との出会いの場「展示会」を分析する Vol.269~272

「作り手の変化」

家族経営で小規模な作り手が多い漆器業界では、その体力的な要因により作った製品を消費地で自ら店舗を構えて 直接販売するケースは少なく、その多くは消費地のさまざまな小売店 (問屋を経由する場合も含む)を通じて販売されています。こうした小売店のバイヤー (買い付けをする人)とはじめて出会う機会、そしてバイヤーに新商品を提案・交渉する機会が、 消費地で開催される「展示会(商談会・販売会)」です。その規模はさまざまですが、このイベントが開催されることで、 消費地のバイヤーは産地まで足を運ぶ体力をかけなくても気に入った商品を一度に選んで交渉できるメリットがあり、 一方の作り手も、土地勘の無い消費地で1軒1軒訪問して販路開拓をしなくても、 ある程度ニーズをもっているお客様むけに一度に販路開拓が可能になります。
実際の「展示会」では、作り手が自社の名前やブランド名を前面に出して自らが立って直接お客様と話をしながら PRすることになりますが、漆器業界におけるこうした取り組みは、10年ぐらい前から増加傾向にあります。戦後、 漆器のニーズが高かった時代には、「越前漆器」「輪島塗」「山中塗」といった地域名を冠したブランド名の下、 産地まで足しげく買い付けに来た消費地の漆器問屋にむけて作り手はただものづくりに専念すればよく、 自ら販路開拓をする必要がなかったためです。近年、ライフスタイルの変化やニーズの多様化の流れをうけて 漆器の需要が低迷する中、消費地の漆器問屋が産地に来る頻度が減り、漆器の作り手も自社製品を販売するための 取り組み方を変えざるをえない状況になりました。
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■今年2月1日~4日まで開催される「東京ギフトショー」についてはコチラ

「様々な方法とそのメリット~共同出展」

私たち漆器産地の作り手が消費地で自社商品をPRし、商談を行なうことを目的として「展示会」へ参加する場合、 大きくわけて以下のような方法があります。
1. 同じ漆器産地内で組合などの組織の下で共同出展する。
2. 異なる産地の作り手がグループを組んで共同出展する。
3. テーマを共通にもつ異業種が合同で同じ会場で出展する。
4. 総合展示会に単独出展する。
5. 1社単独の企画展を開催する。
上記1~3の「共同出展」「合同出展」という方法は、家族経営で小規模な作り手が多い漆器業界において自社の資金的、 体力的な負担が軽く、効率的に新規のお客様と出会える方法といえます。
「1.同じ産地内で共同出展する」という方法は、たとえば「越前漆器」というブランド名でまとまっている 作り手として参加するため、お客様にとってわかりやすく安心感があるともに、 組合などを通じて同じ行政区の自治体などから助成金を受けやすいため、 作り手が負担する参加費用を抑えることができるメリットがあります。 一方、産地内の同業者と数日間、隣り合わせで商談することになるため、相互に手の内が見えてしまったり、 ライバル会社と近い場所でお客様側も話しづらいケースがあることがデメリットといえます。
「2.異なる産地の作り手が共同出展する」という方法は、たとえば会津、輪島、 山中、越前、紀州などの漆器産地の作り手から1~2社ずつ参加してグループをつくり、 展示会に共同出展したり、グループによる企画展を開催するケースです。 上記「1.」のように同業者に手の内が見える心配が少なく、お客様にとっては 「日本各地から集まった漆器の作り手グループ」としてわかりやすいという一面があります。 共同で漆器総合カタログのような販促物をつくってコストダウンを図ったり、相互に購入窓口になる関係づくりも可能ですが、 行政区が異なるため助成金などの金銭的な支援を得ることは難しくなります。
「3.テーマを共通にもつ異業種同士が同じ会場で共同出展する」という方法は、 国の機関(経済産業省や中小企業基盤整備機構、伝統的工芸品産業振興協会など)が主催し、 主催主導でテーマが決められ集客を行なうイベントです。主催者が会場費を負担(貸しきり)して、 宣伝活動も主催者が行なうため、出展する側は参加費を相当安く抑えられるのが魅力です。しかしながら、 小売店のバイヤーにとっては求める商材や作り手がバラバラと参加している展示会となり商談目的としては 非効率になるため、どちらかというと商談会というより、「消費地の個人のお客様が産地の作り手とコミュニケーションを図る」 効果が高いイベントといえます。
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■今年2月18日~19日まで開催される「NIPPON MONO ICHI」についてはコチラ

「様々な方法とそのメリット~単独出展」

前回ご説明した共同出展や合同出展に対して、総合展示会に単独で出展したり1社単独で企画展を開催する方法は、 自社で予算を組んで独自で内容を決めることになるため、展示方法等について自由度が高く、 内容次第では単独でメディアに取り上げられるといったPR効果が期待できます。 展示会場においても同業者の目を気にせずにお客様と商談ができる点は利点です。逆に気になるところはコスト面で、 総合展示会(ギフトショーなど)への単独出展の場合、会場費、設営費用などの出展費用は割高となります。 一方、1社単独の企画展の開催コストは使用する会場次第で低く抑えることができますが、来場者が多い総合展示会に比べて、 集客をするための工夫が必要になります。
当社でもこれまで幾度か単独で総合展示会に参加したり、1社単独の企画展を開催してきました。 すぐに成果につながったものばかりではありませんが、いちからすべてを決めなければならない大変さを 味わいつつなんとか成功させてコスト以上の利益を出そうと必死になって取り組んだ経験は、 今後の事業を展開する上で貴重な糧になったと感じています。
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「展示会出展を支えるさまざまな制度」

消費地の総合展示会に出展するためには、出展費用や会場設営費のほか会場までの交通費や宿泊費、 会場で配布するパンフレット等の資料印刷費といった様々な費用が発生するため、特に地方の中小企業にとっては大きなコスト負担になります。
現在、こうした中小企業の負担を軽減し、消費地での販路開拓を支援する様々な事業が国などの行政機関を通じて行なわれており、 展示会への出展を検討する際にはこうした支援制度の活用を検討することが大切です。 制度を利用することで補助金という形での金銭的な支援のほか、行政機関から継続的に様々な情報提供をうけたり、対外的なPR効果などが期待できます。 支援をうけた企業同士の異業種交流によって新たなビジネスがスタートすることもあります。
こうした支援制度をいちはやく知るためには、経済産業省や中小企業基盤整備機構、 県や自治体のホームページなどでこまめに情報収集をするのがもっとも効率的です。
(山本泰三)

■当社が国の認定をうけた支援事業「地域資源活用プログラム」についてはコチラ
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