東日本大震災発生から1ヵ月がすぎて Vol.281~284

「漆器産地への影響」

このたびの「東日本大震災」におきまして、被災された方々に心よりお見舞いを申し上げます。被災地の1日も早い復興を心より祈念しております。
3月11日の大地震発生から1ヶ月が過ぎました。いまだに東日本では強い余震が続いており、福島第1原発事故の問題も解決が見えてこない状況です。近年、漆器産地を襲った自然災害としては「福井豪雨(2004年7月)=越前漆器」、「能登半島地震(2007年3月)=輪島塗」が記憶に新しいところですが、今回は福島県会津若松市を中心とした会津塗の産地など東北地方の漆器産地が地震の被害をうけました。さらに今回の災害の場合、広範囲におよぶ甚大な被害、原発事故による計画停電などから日本国内全体が「節約」「自粛」ムードとなり、嗜好品的イメージの強い漆器などの伝統工芸品は全国的に需要が大きく落ち込んでいる状態にあります。震災前は、「JAPANを海外へ売り込もう」と国の施策として海外市場への伝統工芸品の進出を支援し、来日された外国人旅行客への売込みなどにも力が入っていましたが、震災によって状況が一変しました。特に今回の原発問題で海外に対して「危険な日本」というマイナスイメージがついたことで、期待される外国人の消費意欲が復活するまでには相当の時間が必要になった感じです。
職人の手仕事による伝統工芸の世界は、地道にでも仕事を継続していくことが必要です。このまま消費低迷が長期化すれば、日本が誇る大切な伝統文化までも失われてしまいます。現在の非常に厳しい市場環境において、漆器業界、伝統工芸業界全体が力をあわせてこの厳しい状況を前向きに乗り越えていく強い気持ちが大切であると考えています。
20110415

「漆器産地としての支援活動」

今回の大震災の被災地にむけて、私たち漆器産地内でもさまざまな形での支援活動が進められています。7年前(2004年)の7月、鯖江市河和田地区の越前漆器産地を襲った「福井豪雨」の際、被災地として全国から多くの支援を受けて復興することができたという経験がある私たちには、「少しでも恩返しになれば」と被災地支援に対する強い気持ちがあります。各企業や職人が独自で支援活動に参加しているケースのほか、「越前漆器協同組合」が産地の取りまとめ役として自治体を通じた様々な支援活動を行っています。
福井県鯖江市の職員が現地で給水活動を続けている岩手県大船渡市の避難所では、発砲スチロール製のお椀や紙コップを再利用して生活し衛生環境が悪化していることから鯖江市として越前漆器による支援を提案、大船渡市からは「ご飯や汁物、飲み物など何にでも使いやすいお椀を欲しい」という回答がありました。鯖江市から連絡があった漆器組合が製造・販売業者、職人らに漆器の無償提供を呼びかけ、集まったお椀3500個、平皿2200個、お箸3000膳が4月7日に鯖江市の職員を通じて大船渡市に届けられました。募集の際には器の形や大きさをある程度そろったものにするなど、被災地の皆さんが器を受け取ったあと使いやすいように規格が統一されました。
被災地は広範囲に及ぶためこのような取り組みもほんの一部の限定的な支援となりますが、業務用漆器の生産量で全国の80%を占める越前漆器産地の一企業として、今後もできる限り継続的に産地の支援活動に参加し、被災地の皆さんに少しでも早く笑顔が戻るようなお手伝いがでればと考えています。
20110422

「再構築にむけた前向きな取り組み~消費地にて」

ゴールデンウィークを前に大震災の被災地では、「元に戻すのではなく、再構築をしていこう」という前向きな思いを込めて復興にむけた様々な取り組みがスタートします。たとえば、宮城県では仙台地下鉄の全線復旧、プロ野球やJリーグのホームゲームが再開される4月29日を「震災復興キックオフデー」と決め、前向きな姿を全国に積極的にPRしています。私たち伝統工芸業界は震災後、「自粛」「節約」ムードの中で需要が大きく落ち込んでいますが、作り手としていつまでも下を向いているのではなく、「ものづくり」を通して日本を元気にするために自分たちにできることは何かを考えて1日もはやく前向きな行動に移していくことが大切です。
当社では、4月28日より2ヶ月間、東京・恵比寿にある高級外資系ホテル内において、漆器・日本料理・季節の花々によるコラボレーションイベントを開催します。日本全体が大変厳しい時期だからこそ、消費地のお客様や外国のお客様に日本料理を日本の伝統的な器で堪能していただき、永く日本人が大切にしてきた世界に誇るすばらしい伝統文化に目をむけていただこうというのが狙いです。こうした取り組みが今すぐに消費につながることは難しいかもしれませんが、中長期的な視点で産地の前向きな思いが消費地の皆様に伝わってくれればと期待をしています。

■イベントについての詳細はこちら

20110429

「再構築にむけた前向きな取り組み~越前漆器の産地にて」

GW前半の4月30日、1ヶ月半ぶりに東北新幹線が全線復旧しました。首都圏と東北の主要都市を結ぶ大動脈の復活によって、1日も早くビジネスや観光による人の流れが元に戻ること、経済復興にむけた第一歩になることを祈るばかりです。
震災後の「自粛」「節約」ムードをうけて地方・福井県も観光などによる県外からの人の流れが大きく落ち込む中、5月3日と4日の2日間は越前漆器の産地において昨年までとは少し異なる形で「漆器まつり」が開催されました。「うるしの里会館」とよばれる産地の中心施設で行なわれることは変わりませんが、従来は「うるしの里まつり」という名前で産地周辺に暮らす人々や子供たちが盛り上がるような、どちらかというと「内向き」なイベントでした。今年からお祭りの名前を「漆器まつり」に変え、テーマを「漆器」にしぼり、特に域外のお客様に積極的に越前漆器のPRを行う「外向き」のイベントに変更されました。産地の作り手として「消費地のお客様に直接産地に来て、漆器を買っていただく流れをつくろう」という強い意識によるものです。今回、地元の来場者は減ったものの全体では約千人増加し2日間で1万3千人ほどのお客様にお越しいただきました。来場者にとっての魅力は、なんといっても「産地直売価格でお安く漆器をご購入いただけること」です。今回の売り上げの一部を東日本大震災の支援金に充てるという取り組みも行なわれました。今回の大震災はあらためて「ものづくり」の地方産地として今後どういうふうに漆器など産地の伝統産業のPRに取り組んでいくか、真剣に考えるきっかけになったと考えています。
(山本泰三)
20110506