艶々と光沢のある漆の器は見ているだけでもうっとりします。でも、触ったときの指紋や、長く使っているうちに付着する洗剤の残り跡などが気になることがあります。そんなときは、息をハーッと吹きかけたり、軽く水洗いをするなどして表面を湿らせたあと、乾いた布で拭けば光沢が蘇ります。布の種類としては木綿がよいのですが、無いときは綿のTシャツをカットしたハギレを使ってもOKです。漆の表面はよく人肌に近いと例えられますが、Tシャツとも相性がいいようです。
漆器の素材には、天然の木材を使ったものに対して、樹脂に木の粉をまぜて成型したものがあります。大きさ・形が同じで、素材の違う2つの製品をならべてみても、見た目にはほとんど区別がつきません。それぞれメリットがありますが、天然木でつくった製品の特徴は「熱を通しにくく保温性が高い」、「軽い」ということです。 たとえば、和食のお店で出されたお椀を手に持ったときに、「熱くて触れない」という経験をされた方は、そのお椀が樹脂で形をつくった漆器の可能性が高いといえます。また、ご自宅などでお椀を水に沈めてみると、浮くかどうかで、おおよそ素材を判定することができます。
食器洗浄機の利用が一般的な飲食店では、木製品よりも乾燥につよい樹脂成型品を取り扱うことが多い傾向にあります。一方で、木製の器の特徴を活かしてお料理をだされるこだわりのお店もあります。食器洗浄機が家庭にも普及しはじめている昨今、お客さまには、人にも環境に優しい木製品の良さをぜひ忘れないで欲しい、というのが私たちメーカーの願いです。
当社では、地域を問わず全国のお客様むけに商品をつくっていますが、ひと昔前までは、その地域ごとに商品の売れ筋が異なっていました。迎春(お正月)商品に関していうと、九州地方のお客さまは重箱より屠蘇器、関東地方のお客さまは逆に屠蘇器より重箱をお求めになる傾向がありました。また、関西地方や東海地方のお客さまは蒔絵などの加飾があるもの、関東地方のお客さまは逆に無地に近いものが好まれる傾向がありました。
ライフスタイルが変化し、ニーズが多様化した昨今、特に若い購買層では地域による売れ筋の違いはほとんど無くなり、デザイン性の高いもの、ブランド力があるもの、和洋問わずいろいろなものと合わせやすいものが売れる時代になりました。モノや情報があふれる中で、私たち漆器メーカーは、世の中で売れているものをつくるという姿勢だけでなく、時代のニーズを先取りしながら、いち早く世の中にご提案していく姿勢が求められています。
漆器には、その材料、工程、作り手の違いから100円ショップにならぶ低価格のものから何代も受け継がれるような数十万円から数百万円する高価なものまであります。そのため、漆器に対する認識・イメージもお客様によってさまざまですが、たとえば家族の中に、漆器に特別のこだわりをもたれている方と、普段から漆器をあまり使われていない方がいらっしゃると、時として家庭内に不協和音が響くことがあるようです。
「お姑さんが大事にしている高価な屠蘇器の取扱方法をめぐり、お正月から若いお嫁さんとお姑さんの間でピリピリしたムードになってしまうので、お正月は定期的に家族旅行をすることにしている」というお話をあるご主人からお伺いしました。 お祝いの器であるはずの屠蘇器が、家庭の平和を脅かす存在になってしまうのは、漆器メーカーとしては大変残念なことですが、これも価値観が多様化している時代の表れかと思います。
お客さまからそういうご相談をいただいたときは、「普段使い用」と「お宝品用」に使い分けできるよう、同じ色・形の価値の異なる漆器を一つずつご提案することがあります。