山久漆工の工房探索 1 Vol.41~44

「漆庫の漆桶」060908

こんにちは、千次です。少しずつですが秋の雰囲気が感じられる季節となりました。
真夏の厳しさも和らいできたところで、新入社員の私があらためて当社の蔵や工房内をじっくりと探索してみましたので、皆様にご紹介します。
まずは、工房の1階から。職人部屋のある廊下の突き当たりが「漆庫」です。漆庫は漆を管理しておくために日が当たらず、低めの湿度、温度がほぼ一定であるところでなければいけません。当社の漆庫は、工房内の外壁で厚く囲まれた最適な場所にあり、中にたくさんの木製の「漆桶」を見つけました。最近では漆はチューブ、樹脂、紙製のものに入れて販売されているのが主流ですが、木製の漆桶は寂びの情緒があり、実は骨董家には人気があります。作意のない漆の芸術作品?ですね。

 

 

「職人部屋のマナイタ」060915

夏の閑かさが遠のき、年末年始に向けての足音が聞こえるようになりました。まだ9月とはいえ、商売の水面下ではお正月商品準備にむけた慌しい動きが始まっています。
さて、工房探索は、次に職人部屋にお邪魔しました。ここには、職人の道具がたくさんあります。機械や金属製のものは少なく、木製の道具が多いです。だから職人の仕事は閑かに行われています。
朝、職人は始めに「マナイタ」と呼んでいる小さめの作業机を準備します。マナイタの上で漆をとり、下地を作り、ヘラを削り、刷毛を準備するなど、基本的な作業が行われます。マナイタは漆が乾かないうちに拭き取らないと漆が固まっていきます。忙しい時期は拭き取る時間が惜しいものです。写真のマナイタは、工房で以前仕事をしていた職人のものですが、その当時の忙しさを伺い知ることができます。

 

 

「中塗り保管部屋」

初秋の空がさわやかな季節となりました。今回の工房探索では、中塗り状態の漆器を保管している部屋に行ってみました。中塗りとは漆器が完成する手前の状態のことです。漆器は木の素地に下地塗り(漆に砥の粉という細かい土を混ぜたもの)を施し、次に中塗り(下地に2回ほど漆を塗る工程)をしてから、最後に上塗り(漆器の最終工程)をして完成になります。木の素地を使う漆器の場合、いっきに上塗りまで製作してしまうと、完成後の商品の表面に「ヤセ」という状態が発生しやすくなります。ヤセの原因は、木地ヤセ(木の素地の水分がなくなり凹んでくる)や下地ヤセ(下地塗りに使った漆の水分がなくなり凹んでくる)によるものですが中塗をしっかりと施し、研いだ後の状態で数ヶ月、または数年そのまま保管しておくことで、ヤセの発生をある程度防ぐことが出来ます。(漆器産地のギョーカイ用語 Vol.21~27ご参照)
当社の中塗り保管部屋には、数年前に中塗を施した状態の広蓋(ひろぶた。正式なお祝いの場で使うもの)、屠蘇器、重箱など高級品が保管されています。これらの商品に上塗りを施せば、ヤセの少ない最高級の漆器が出来ることでしょう。
060922

「お正月準備の工房」

初秋の候、季節は忙しさが増してきましたが、秋は食欲が進みますね。美味しいみのりの秋が有難い毎日です。
さて、今回は早くもお正月商品の準備であわただしくなってきた当社の工房についてご紹介したいと思います。 前回このコーナーでご紹介したように、中塗りの状態で保管されている重箱、屠蘇器、雑煮椀などの商品は、その年のお正月むけに、まとまった数を塗師にお願いして上塗を施してもらいます。その後、少し日数を置いて漆が乾いてから、蒔絵(まきえ)や沈金(ちんきん)などの加飾を施すために、職人ところへ品物を持っていきます。また一方で、品物を入れて出荷するための化粧箱や桐箱を用意します。箱は通常、箱置き場に在庫として保管しておくのですが、この時期は出荷量が多く、回転がはやいということで、すぐに出荷できるよう、工房の廊下の一角や商品の棚の前に山積みされています。
工房の中が商品や化粧箱で埋まり、人が通るのがやっと・・・というぐらいにご注文が入ることを夢見ながら、これから年末までの日々を過ごすことになりそうです。
(宮川千次)
060929