金と漆器の深い関係 Vol.137~140

「漆器に使われる金」

日本の伝統工芸である漆器にとって「金」は欠かすことができない資材です。 蒔絵(まきえ)や 沈金(ちんきん) といった加飾技術に用いて芸術性を高める効果のほか、 木を素材としたものに対して漆とともに金を使うことで耐久性を高めて、 重要文化財などを現代に伝える役割を果たしてきたと言われています。金は、漆の色との相性がよく、 漆黒の中に金が入ることで華やかさが生まれ、朱漆や白漆のなかに金を使うことで、 朱や白漆の本来の色が一層引き立ちます。最近のモダンなライフスタイルの中でも、 器の中にさりげなく金色が使うことで洋のテーブルに華やかなイメージを加える役割を果たしてくれます。
近年、金の価格が上昇を続けており、ここ10年では最低価格から比べて2倍から3倍近くまで、 特にこの1年間の値上がり率は急激です。物価上昇傾向にある昨今ですが、 金の価格上昇は漆器づくりにも少なからず影響を与えています。
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※写真左:中央の蓋つきの器、折敷、ナプキンリング、箸に金を使用~

「金の接着剤としての漆」

漆というと、一般的には漆器の表面に塗り重ねる塗料として知られていますが、 実は自然界に存在する最強の接着剤であることはあまり知られていません。合成的な接着剤がなかった時代、 漆が接着剤として使われ、古くは農業に使う道具づくりの際にも使われていました。
現在でも、漆器づくりの中ではお客様の目に見えない部分で接着剤として活用しています。 たとえば重箱の素材となる木板どうしの接着のほか、沈金や蒔絵といった加飾の際に金粉や金箔を器に接着させる際に 漆が使われます。また、漆器に限らず仏壇や仏具、神社仏閣など建造物に金箔を貼る作業のときにも漆を使います。 割れた焼き物(磁器など)を漆で接着させる技法として「金継ぎ(きんつぎ)」があることは知られていますが、 金継ぎによって器の工芸的価値が高まることもあります。
こうしてみると漆と金は接着という観点でも大変相性がよいことがわかります。
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「加飾に使う金の種類と道具」

漆で絵を描き、その漆に付着させるように金粉を蒔く「蒔絵(まきえ)」、漆器の面に刃物で絵を彫り、 その彫り痕に金粉を入れる「沈金(ちんきん)」。 代表的な加飾技法に使われる「金粉」には様々な種類や大きさがあり、 職人はそれぞれにあった道具を使いわけながら美しい絵柄を表現します。
「消粉(けしふん)」は金箔を粉状に細かく砕いた金のこと、また「丸粉(まるふん)」は地金(じがね)を ヤスリでおろし、焼き高度を増した後、球状に丸めた金でのことです。「丸粉」には様々な大きさがあり、 最も細かいものを1号、そのあと順に2号、3号・・・と大きくなっていきます。 ちなみに1号の一粒の大きさは約5ミクロン(1ミクロン=1/1000ミリ)です。 その他にも地金をヤスリでおろした状態の「平目粉(ひらめふん)」や、 それをさらに平たくつぶした「梨地粉(なしじふん)」などがあります。
蒔いた金の上から行う「研ぎ」と呼ばれる工程は、力加減が難しく、 研ぎが弱いと金の輝きは半減し美しくならず、研ぎすぎてしまうと金がはがれてしまいます。 職人は、長年の「勘」で力加減を調整します。
金粉を扱う作業には「綿(わた)」や「筒(つつ)」等の道具を使います。 消粉のように非常に細かい金は綿で磨きます。「筒」の先は網目になっていて、 丸粉、梨時粉、平目粉など粗い金を筒の中にいれて、ふるいをかけるように使います。
20080725

「金に代わる材料」

漆器に金色の絵柄をつけたり、表面を金色に塗る場合、 本物の金を使わずに金に似た材料(代用金)をつかうことがあります。 代用金の最大のメリットは安さです。一つの器に金色を使う量が多ければ多いほど、 本物の金か代用金かによって同じ絵柄で相当な価格の違いがでます。
代用金にはいろいろな作り方や特徴があります。 銅と亜鉛の合金である真鍮(しんちゅう)粉を使った代用金は、 金色の絵柄の印刷や塗料としてよく使われます。本物の金に比べると少し黄色味が薄く、 白っぽい金色という感じです。
他に、光沢感や質感が金に近い、銀に着色する方法があります。 ただし、金と違って銀は黒ずむなどの変色の可能性があります。 銀に比べて変色が少なく価格も安いアルミの粉に着色する代用金もありますが、 輝きはキラキラというよりは、暗く鈍いものになります。
代用金は、本物の金と同様に器に豪華なイメージをあたえる効果があります。 樹脂製品など安い素材の漆器製品の加飾には、コストを抑えるための有効な工夫といえます。 ただし、どんなに代用金の技術が進んでも、 そのすばらしい質感を維持しながら変色や錆びがまったく発生しないという 非常に優秀な金属である本物の金には、絶対にかなわないというのが現状です。
(山本泰三)
20080801