蒔絵の技法 Vol.61~64

「蒔絵(まきえ)とは・・・」

こんにちは、千次です。前回は白漆の器に蒔絵の技法で描かれた桜の花びらを散らせた商品をご紹介しました。一般的な黒漆の器に施された蒔絵とはまた趣が違って、柔らかくて優美で、かつナチュラルな質感の白漆が、よりいっそう桜の花びらの可愛らしさを引き立てている商品です。漆器に描かれる蒔絵は、背景となる漆の色と蒔絵のデザインの組み合わせ次第で、ずいぶんイメージもかわっていきます。
さて、今回からは、「そもそも蒔絵とは、どういう技法なのか」について、ご紹介していきたいと思います。

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「蒔絵(まきえ)」を辞書で調べると、「器物の表面に漆で文様を描き、金・銀などの金属粉や色粉を蒔(ま)きつけて付着させる、日本独自の漆工芸。奈良時代に始まる。技法上から平(ひら)蒔絵・研ぎ出し蒔絵・高(たか)蒔絵に大別される」とあります(大辞泉より)。絵を描くつもりで金属の粉を蒔いていく作業から「蒔絵」という技法名が付けられたようです。写真は金属の粉を「粉筒(ふんづつ)」という道具で蒔いている様子です。

「平蒔絵(ひらまきえ)とは・・・」

漆の器に金や貝を使って蒔絵を施し、豪華絢爛の雰囲気を醸し出すことが出来るのは、 漆器の特徴の一つです。蒔絵には様々な技法がありますが、いくつかの基本的な技法についてご紹介したいと思います。
蒔絵の中で、もっとも基本的な技法は「平蒔絵(ひらまきえ)」という技法で、「消し平蒔絵(けしひらまきえ)」と「磨き平蒔絵(みがきひらまきえ)」があります。

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「消し平蒔絵」は、漆を使って出来るかぎり薄く絵を描き、その上に「消し金粉」とよばれる金粉を粉筒(ふんづつ)または、真綿に付けて蒔きます。漆の部分には全て金粉が付着し、蒔いた跡がはっきりと表れるので、漆で絵を描く際は細部にいたるまで慎重な作業が要求されます。漆が乾いたら、摺り漆(金粉の上から灯油で希釈した透漆を施すこと)をし、再度乾かします。この工程によって金粉がしっかり付着します。漆が乾いたところで、完成となります。
「磨き平蒔絵」は、消し金粉より粒子の粗い金粉を蒔きます。その後は「消し平蒔絵」と同じ手順ですが、最後に漆が乾いた後、金粉の上からさらに磨き作業を行い、完成となります。「消し平蒔絵」に比べて、より光沢のある蒔絵になります。
写真の吸物椀は、「磨き平蒔絵」が施されていますが、大きな葉の部分の面積が広いため、不自然なムラができないよう、いかに漆を薄く均一に塗れるか、蒔絵職人の腕の見せ所です。

この商品の詳細はコチラ
http://www.yamakyu-urushi.co.jp/07/std/13/08_23_07.html

「研ぎ出し蒔絵(とぎだしまきえ)とは・・・」

070209「漆の上に金粉を施された蒔絵は、きっと剥がれやすいのでは?」という印象をお持ちの方が多くいらっしゃると思います。事実、永く使われているお椀など蒔絵の金粉が剥がれて、まれにベースの漆が見えているのもありますが、通の中ではその自然な風合いを好む方もいらっしゃるようです。
「剥がれやすいもの」という印象をもたれている蒔絵ですが、今回は金粉が取れない技法の「研ぎ出し蒔絵」のご紹介をしたいと思います。
前回ご紹介した「平蒔絵(ひらまきえ)」に対して、「研ぎ出し蒔絵」は漆と蒔絵の面が均一になっているために、表面を強く傷つけたり、意識的に削らない限り金粉が取れません。工程は、まず、漆を上塗りして塗りを完成させる前の段階の器に対して、「平蒔絵」の要領で蒔絵を施します。蒔絵が乾いた後に最終の上塗りをします。上塗りが乾きましたら漆を研いで漆の下の金粉を出していきます。
「研ぎ出し蒔絵」は「平蒔絵」のような直接の光り方をせず、落ち着いた光を放つので、最後の研ぎの工程により、金粉をどれだけ美しく出せるかが職人の腕の見せ所です。

「高蒔絵(たかまきえ)とは・・・」

今回は「高蒔絵(たかまきえ)」という技法をご紹介したいと思います。「高蒔絵」とは、文字の通り高く盛り上がった蒔絵のことを言います。高く盛り上げる技法にはいくつかあり、上塗りを施し乾燥させた器の蒔絵の部分に漆を厚めに塗り盛り上げる「漆上げ」、蒔絵を施す部分を厚めに塗った漆の上に炭粉(すみこ)や焼錫粉(やきすずふん)を蒔いてさらに盛り上げる「炭粉上げ」、「焼錫粉上げ」、水練りした砥粉(とのこ)に生漆を混ぜた錆漆(さびうるし)で盛り上げる「錆上げ」などです。 一般的に使われる商品には「漆上げ」されたものが多く、博物館や美術館に展示される美術品には「炭粉上げ」「焼錫粉上げ」「錆上げ」されたものが見られます。
「高蒔絵」は、盛り上げて形を作った上に前回までにご紹介した「平蒔絵」や「研ぎ出し蒔絵」などを施すという工程になりますので、かなりの時間と労力がいる作業になります。
このように「蒔絵」は様々な技法を用い、組み合わせることで、「絵」とは違った「工芸」の世界を味わえる逸品となります。写真の「高蒔絵」は、金地の中から鶴が浮かび上がっているのがはっきりとご覧いただけます。(宮川千次)

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