塗り物にこだわるお食事処 Vol.109~112

「そば屋」

ライフスタイルの変化により、家庭で漆器が使われることが少なくなってきたといわれますが、飲食店や旅館など業務用として器を扱うところでは、今もさまざまな漆器製品が使われています。当社のある越前(福井県)の漆器産地は、幅広い製品群と整備された量販体制を背景に、全国で業務用漆器の80%以上の生産量を誇っています。今回から「塗りもの」にこだわる飲食業界についてご紹介したいと思います。
今年もあと僅かとなりましたが、やはり年末には「年越しそば」は欠かせません。江戸時代から定着した食習慣といわれ、細く長くのびるそばを大晦日に食べることで寿命を延ばす、家運を伸ばすとして縁起が良いという説や、切れやすいことから1年の苦労や厄災を絶つという意味があるそうです。そして「そば屋」では、せいろや、蕎麦湯を入れる湯桶(ゆとう)、丼、薬味入れまで、様々な漆器製品が使われています。そば打ちの道具である「こね鉢」にも漆器が使われることがあります。温もりのある塗りの器に囲まれておそばを食べるとき、「日本人だなあ」とホッとする瞬間があります。
そば屋で使う漆器は一見すると形状は同じでも、扱う漆器の素材は天然木・天然漆にこだわる本物志向のお店から、食器洗浄器対応の合成樹脂製の器が中心のチェーン店まで様々です。もし、おそば屋さんに行ったときは、塗りものの器をチェックしていただくと、そのお店の器へのこだわりが見えてくるかもしれません。
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「赤坂 そば切り 観世水」にて撮影

「日本料理」

あけましておめでとうございます。
本年も「掻きます!漆の話」をよろしくお願いいたします。

さて、お正月の料理といえばお節料理です。ライフスタイルが変化し、お正月でもスーパーやコンビニが開店している時代ですが、やはり「お正月はお節がないとはじまらない」というご家庭もまだまだ多いようです。それぞれのご家庭で作るのが一番ですが、百貨店や通信販売で日本料理店の老舗の味を「お取り寄せ」するのも、ちょっと贅沢で今風のお節の楽しみ方です。
素材を生かしたシンプルなものが多い日本料理は、盛り付ける器によって、随分と味が違って感じられます。日本料理のお店は、特に器へのこだわりが強い業種です。
お節をいれる器「重箱」には、料理を重ねて、喜びを重ねるという意味があるそうです。重箱というと、一般的には塗りものの漆器ですが、お料理を盛り付けて販売する際の重箱はプラスチック製や紙製品など使い捨てのものも多いようです。それでも最近は、お節の用途が終わってもそのまま普段使いができるような塗りの重箱を扱うお店もあり、オリジナル性の高いさまざまなお節料理が販売されています。皆様、今年のお節はいかがでしたか?
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※撮影協力「花外楼」

「うなぎ屋」

塗りものにこだわるお食事処として今回ご紹介するのは「うなぎ屋」です。うなぎ屋は、江戸時代や明治時代から創業100年を越える老舗店が多いのが特徴です。うなぎ屋で使われる器といえば、うな重やうな丼、肝吸いを入れる椀など漆器が中心ですが、特に老舗店では、代々使い続けている木製漆塗りの器を、我々のような漆器の作り手に依頼して、定期的に修理や塗り直しをして使い続けています。最近では合成樹脂製など丈夫な素材を使っているお店もあるようですが、何十年も使い込んで、何度も塗り重ねている木製漆塗りの器でいただくうなぎ料理は、歴史とともに、つつみこむような温かみと深い旨みを感じることができます。
さて、うなぎというと「土用の丑の日」ですが、幕末の学者平賀源内が、近所のうなぎ屋から「夏場にウナギが売れないので何とかしたい」と相談をうけ、今日うなぎを食べると良いという意味で「本日土用丑の日」という看板を店先に出し、大繁盛したのがきっかけだといわれています。また、古くは「万葉集」の歌に、夏痩せにうなぎが良いという表現が残っており、古くから栄養食として愛用されていたことがわかります。開き方や焼き方の違いで関西風と関東風があったりと、うなぎにまつわるお話はまだまだあるようですが、夏に限らず元気をつけたいときや「勝負の日」などには、塗りものの器でいただく栄養満点のうなぎ料理を是非お試しください。
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※撮影協力:浅草 川松

「昔は寿司屋、今はイタリアン」

お寿司屋さんも、寿司桶や吸い物椀など塗りものを器に使う飲食店のひとつです。近年は回転寿司の普及などにより、高級店と安さを売りにしたチェーン店の二極化がすすむなかで、出前でお寿司をいただくスタイルが減り、寿司桶の需要が少なくなりました。また店内では食器洗浄乾燥機に対応できる合成樹脂製の器が中心となりました。当社でも30年ほど前までは、木製漆塗りの器の販売や修理でお寿司屋さんのお仕事が多かったのですが、いまでは器にこだわりをもった一部のお店のみとなりました。
一方、最近は外国人が日本の漆に注目しているようです。漆の深い黒と、鮮やかな朱に強く感銘をうけたイタリアン人シェフのお店では、テーブルマットとナイフ&フォークレストに当社の漆製品をお使いいただいています。通常のイタリアンは金属のナイフとフォークを使うため、食器として漆製品を使うことは難しいですが、食卓をしつらえる小物やマットに漆を使うことで、独特の食空間を演出できます。
飲食店にご提供する器を通じて、時代の流れを強く感じる今日このごろです。
(山本泰三)
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※撮影協力:赤坂 鴇多
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※撮影協力:東京・自由が丘 Mecenate(メチェナーテ)