お椀が生まれる前に Vol.13~16

(その1)

前回までは「同じ形のお椀なのになぜ値段が違うか」についてご紹介しました。
品質の高い漆器づくりをめざして良い材料を使い、一つの商品を完成させるまでの工程に長く手間をかけるほど材料費や人件費がかかる分、値段も高くなります。しかしながらお客さま(消費者)が求めるものは「品質が良くて、少しでも安い商品」です。そこで、漆器の産地では、材料費や人件費を抑えつつ品質を維持する商品づくりにはどうすればよいかを考えました。
そこで生まれたのが、製作工程ごとに専門の職人が担当する「分業体制」です。
全国の漆器産地の多くは、「分業体制」のもとで漆器づくりがおこなわれています。

(その2)

「分業体制」による漆器づくりに対して、最初から最後まで一人の職人がつくりあげる漆器もあります。
全ての製作工程について熟練した職人だからこそできるものであり、一つ一つの商品に異なる表情を持たせた個性的な商品を生みだします。そのような商品のことを「作家もの」と呼ぶことがありますが、お値段は相対的に高い傾向にあります。 それは、その芸術的な価値の高さに加えて、ひとつの商品のためにその形の木地・塗料を準備することになり、材料面・作業面でコスト高になるためです。
一方、「分業体制」では各工程の担当職人が、ある程度決まった範囲の材料・作業で仕事を行うので、材料費を抑えつつ、効率的に作業を行うことができます。結果として一度に多くの商品を製造することができる「分業体制」は、 品質を維持しながら価格を抑えた商品をつくるのに適した方法 といえます。

(その3)

「素地づくり」「塗り」「加飾」といった製作工程ごとに専門の職人が担当する「分業体制」ですが、 漆器づくりは各工程において時間と手間がかかるため、たとえば一つの工場内でベルトコンベアに載せて完成させるという訳にはいきません。
各職人がそれぞれの仕事場で作業し、完成したら次の職人の仕事場へと次々と商品が移動していきます。産地では職人の自宅を仕事場と兼用にしているケースが多く、ひとつの商品は、完成するまでに複数の職人の自宅を何軒もまわることになります。
産地メーカーである当社の役割のひとつは、各仕事場の状況を把握・管理しながら、商品を効率よく移動し完成させて、1日もはやくお客さまの手元に漆器を届けることです。
旅をするのが商品だとすれば、当社は商品にとって「旅の案内人」とでもいったところでしょうか。

(その4)

福井県鯖江市の東に位置する河和田 (かわだ)地区は、これまで分業制により大きく発展してきた漆器産地です。河和田地区は面積が直径5キロほどで約1300世帯の小さな町ですが、そのうち約300(23%)以上の世帯が、「素地職人」「塗り職人」「加飾職人」「漆器販売業」など、さまざまな形で漆器に携わっています。
町の日常には、各職人の仕事場(自宅など)の間を車に載せられた商品が行き交い、完成した商品が大型トラックで消費地へと出荷されていく風景があります。
産地では、ここ10年の景気低迷による出荷数減少に伴い、後継者問題など「分業体制」を維持する難しさが出てきたとも言われています。漆器産地としてリーズナブルで品質のよい漆器づくりを続けていくためにも、日本が誇る漆器のすばらしさを様々な形でお客さま(消費者)に伝えて、「漆器が欲しい」というニーズを呼び込むことが、今、我々産地メーカーが行うべき役割であると考えています 。